関税撤廃など高い水準の貿易自由化に合意-欧州委、日EU・EPAのテキスト案の一部を公開-

(EU、日本)

ブリュッセル発

2017年07月07日

欧州委員会は7月6日、日EU首脳会談で大枠合意した日EU経済連携協定(EPA)の概要とテキスト案の一部を公開した。これによると、EPAが発効すれば、一部の農林水産品を除いてほとんどの商品で関税は即時撤廃、あるいは所定の関税撤廃期間(最長15年)を経て、撤廃される見通しだ。特に自動車を含む工業品については、最終的には全品目で100%の関税撤廃が実現する。また、コメやノリなどはEU・日本ともに関税削減・撤廃から除外されたほか、豚肉やチーズなどは比較的長期の関税撤廃期間を設定し、日本側で懸念された輸入急増に対するセーフガードも確保した。ただし、投資紛争処理の在り方など協議が継続される分野も残り、双方の批准手続きもあるため、EPA発効まで時間がかかりそうだ。

最終的には双方100%に迫る無税割合に

欧州委は7月6日、日EU首脳会談で日EU・EPAが大枠合意(2017年7月7日記事参照)に達したことを受け、協定テキスト案(暫定版)の一部を公開した。

併せて発表された概説によると、関税撤廃を含む「物品市場アクセス」については、日本原産品のEU市場へのアクセスでは、EPA発効時点での輸入額ベースの関税撤廃割合が全体で75%にとどまるが、最大15年の関税撤廃期間をかけて100%近くに高まる見通しだという。例えば日本車(乗用車)については、現行10%の関税が7年かけて削減され、8年目に撤廃される。また、品目ベースの関税撤廃割合はEPA発効時点で96%、最終的には99%まで上昇するとしている。

他方、EU原産品の日本市場へのアクセスをみると、EPA発効時点での輸入額ベースの関税撤廃割合は全体で91%に上昇し、最終的には99%まで高まるとしている。また、品目ベースの関税撤廃割合はEPA発効時点での86%から、15年かけて97%まで上昇するとしている。日本市場での一部農林水産品については、現行の関税割当制度が維持される。なお、コメと海藻(ノリ・コンブなど)については、EU・日本ともに関税削減・撤廃から除外することとなった。

EU原産農林水産品の対日アクセスは比較的緩やかに

EU側の日本の農林水産品市場への関心は高いが、最終的な輸出額ベースの関税撤廃割合は87%程度となる見通し(品目ベースでは85%程度)。

EU側の関心が最も高かった豚肉については、EUからの輸入品の価格が低い時は基準輸入価格を下回る部分を関税として徴収して国内養豚農家を保護する半面、価格が高い時には低率な従価税を適用することにより関税負担を軽減し、消費者利益を図る差額関税制度が維持される。また、関税削減期間は10年となり、日本市場での輸入急増に対するセーフガード措置が考慮されている。

ワインなどアルコール飲料の大半の関税は、EPA発効に伴い即時撤廃(現行関税率は15%)となった。EU側はチリワインなど日本市場での競合商品に対抗できると成果を強調している。

チーズでは、「チェダー」「ゴーダ」「パルメザン」などハードタイプのチーズ(現行関税率:最大28.9%)については15年の関税削減期間となった。他方、「カマンベール」「フェタ」「ブリー(白カビ)」などのソフトタイプのチーズについては、関税割当の対象となり、日本の国内市場での消費動向を考慮した割当枠を設定することになった。

他方、工業品については、化学品から繊維・アパレルに至るまで全般で最終的な関税撤廃が合意された。関税撤廃期間は品目によるが、最終的に100%の関税撤廃が達成される。欧州委によると、皮革と履物については、協定発効と同時に関税割当制度が廃止になるとともに、現行税率:最高30%がEPA発効と同時に21%まで低減し、その後、大部分が11年目に撤廃されるとしている。

投資紛争処理の在り方については協議継続

そのほか、「商品以外の市場アクセス」や「ルール」についても広範な合意が形成された。「政府調達」については、EU事業者が一定条件を満たす場合、日本全国48の中核市における公共調達に、差別なく参画できるようにすると日本側が合意したことをEUは評価。日本に対しても、準中核市(sub-central)レベルで同様の待遇を認めるとしている。

また「地理的表示(GI)」については、EU側の200を超える食品・飲料に関して、EPAの下で日本でも同等の保護を認めることで合意した。

このほか「規制協力」については、依然として協議継続になっているが、規制案の事前公表、より良い規制の策定のための協議・協力のための対話プロセスの導入などが想定される。

また「投資紛争処理の在り方」についても、日本側・EU側に意識の隔たりがあり、今後も協議を続けるとしている。EUは、対カナダの包括的経済貿易協定(CETA)(2017年2月16日記事参照)や対ベトナム自由貿易協定(FTA)(2016年2月8日記事参照)で導入することに成功している「投資裁判所制度(ICS)」をその他のFTAでも導入することを強く求めている。EU側には、環太平洋パートナーシップ(TPP)でも導入されている、国際商事仲裁方式を活用した米国型の第三者を通じた解決手続き(ISDS)に対して、EUの理念を否定する判例が確立されかねないとの意識から警戒感が根強い。このため、裁判官(調停者)の人選を含めてEU側が影響力を行使できるICSによって、EU理念になじまない判例が乱立する事態は避けられると考えているようだ。

(前田篤穂)

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