個人データ保護で日EU間の枠組み構築へ高まる機運
(EU、日本)
ブリュッセル発
2017年07月19日
日本とEUの間の個人情報(データ)保護やその相互移転に関して、円滑な枠組みを構築することに官民の機運が高まっている。7月11日にブリュッセルで開催された日EUの企業関係者が集うビジネスラウンドテーブルや政府間対話において、双方向のデータ移転を円滑化する枠組みの早期構築を後押しする発言が相次いだ。今後、日本の個人情報保護委員会と欧州委員会司法総局が中心となり、2018年の早い時期の合意実現を目指して、さらに具体的な調整を進めていくことになる。
官民に相次ぐ前向きなメッセージ
個人情報を含むさまざまなデータの国境を越えた移転が、グローバルなビジネス展開や新たなイノベーション創出のために不可欠となる中で、日EU間双方向の個人データの移転に関する枠組み構築に向けた機運が高まっている。EUから日本への個人データの移転が原則として認められるためには、移転先の国において個人データ保護が十分なされているとEUが認める「十分性認定」が必要となる。反対に、日本からEUに個人データを移転するためには、日本の「個人情報保護法」第24条(外国にある第三者への個人データの提供に関する規定)に基づき、EU加盟国を、個人情報の保護水準が日本と同等の水準と認められる国として指定することが必要となる。EUでは、厳罰を伴う「一般データ保護規則(GDPR)」(ジェトロ調査レポート「EU一般データ保護規則(GDPR)に関わる実務ハンドブック(入門編)」参照)が2018年5月から適用され、域外へのデータ移転が厳しく制限されることとなる。しかし、日本に対してこの十分性が認定されれば、EU域内と同様に日本への個人情報の移転が原則として認められ、国境を越えたビジネスのリスクが低減することになる。
EUは日本を「十分性認定」の優先検討対象としており(2017年2月8日記事参照)、これまでも欧州委司法総局と日本の個人情報保護委員会との間で対話が重ねられてきた。当局間の対話の進展を受け、7月4日には日EU共同のプレスステートメントが出された。さらに日EU経済連携協定(EPA)の大枠合意がなされた7月6日(2017年7月7日記事参照)に、欧州委のジャン=クロード・ユンケル委員長と安倍晋三首相がデータの保護と活用に関する共同声明「個人データの越境移転に関する政治宣言」を発表した。この共同宣言において両首脳は、「2018年の早い時期」を目標として、相互のデータ移転を可能とするための努力を強化する旨を言及している(2017年7月7日記事参照)。一般に、EUによる「十分性認定」は長期間の検討を要し、検討期間が10年間を超えることもある中で、合意交渉は一歩進んだ局面に入ったといえる。
また、この共同声明を受けて、7月11日にブリュッセルで開催された日欧ビジネスラウンドテーブルにおいて、欧州委のアンドルス・アンシプ副委員長(デジタル単一市場担当)をはじめとするEU高官や産業界から、日本とEUがリーダーシップを発揮してデジタルエコノミーを創出することや、そのための円滑な個人データ移転を可能とする枠組みの早期実現について後押しする発言が相次いだ。また、同日午後には、世耕弘成経済産業相とアンシプ副委員長およびベラ・ヨウロバー委員(法務・消費者・男女平等担当)が会談し、日EU首脳の共同声明の内容やデジタルエコノミーの重要性について確認した。日EU相互の円滑な個人データ移転をめぐる追い風は、これまでになく強く吹いている状況だ。
日本の個人情報保護委員会と欧州委司法総局が調整
今後、日本の個人情報保護委員会と欧州委司法総局が、日EU双方の個人情報保護法制をさらに精査し、相違点の検証や必要な対応の検討・調整を行っていくこととなる。その交渉を担う個人情報保護委員会の山本和徳参事官は、7月12日にブリュッセルで開催された在欧日系ビジネス協議会(JBCE:Japan Business Council in Europe)のデジタル・イノベーション委員会で登壇した。今回の共同声明や、声明に至る欧州委司法総局との調整の成果として、(1)日EU双方におけるプライバシー制度の最近の改正によって、両者の個人情報保護制度が一層類似したものとなったことを双方が確認したこと、(2)「2018年の早い時期」と時期を明示した上で、目標達成のために双方が努力を強化することを確認したこと、の2点を挙げた上で、「双方の文化的、歴史的経緯の違いも踏まえながら、個人情報の適切な保護と、ビジネスやイノベーションを阻害しないかたちでのルール形成の両立を図っていくことが重要。今後の検討に向けて、産業界からのインプットも必要となる」との認識を示した。
IoT(モノのインターネット)やビッグデータ活用をめぐる規制協力と併せて、日EUのデータ流通の枠組みがデジタルエコノミー社会におけるルール形成のスタンダードとなっていく可能性がある中で、日EU相互の円滑な個人情報(データ)移転を図る枠組みの構築に向けた動きに注目が集まる。
(積田北辰、前田翔三)
(EU、日本)
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