特集:変わりゆく世界の勤務環境―アフターコロナを見据えた働き方とは出社・在宅をあわせたハイブリッド勤務、なおも(米国)

2022年9月8日

米国では、新型コロナウイルスの新規感染者数が減少と増加を繰り返している。その中で、出社とリモートワーク体制の両方を継続的に取り入れる企業が増える傾向にある。いわば、ハイブリッド勤務形態だ。その背景には、通勤や出社による新型コロナウイルス感染リスクへの懸念以外にも、さまざまな要因がある。 本稿ではまず、米国でのリモートワークが進んだ経緯や現状に焦点を当てる。その上で、リモートワークが特に受け入れられている職種や在米日系企業の現状などを報告する。

本稿では、リモートワークが可能な職種に焦点を当て、米国でリモートワークが進んだ経緯、米国企業のリモートワークの現状、在米日系企業の対応などを報告する。

オフィス縮小・閉鎖に至る例も

米調査会社のピュー・リサーチ・センターは2022年2月16日、リモートワーク可能な職に就く人を対象とした勤務体制に関する調査外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます(注1)を発表した。この調査によると、「主にリモートで勤務している」とする回答者は、2020年10月時点(新型コロナ禍中)で71%だった。これが、2022年1月には59%に減少した。もっとも、「コロナ禍以前から頻繁にリモートで勤務をしていた」との回答23%に比べるとなお多い。すなわち、当年初頭でもなお、勤務形態がコロナ禍前のようには戻っていない企業が多かったことになる。

また、パートナーシップ・フォー・ニューヨーク・シティーが2022年4月21日から5月4日にかけて実施した調査(注2)でも、完全リモートを導入している企業は28%、何らかのハイブリッド勤務形態を導入している企業は63%。完全出社としている企業は8%にとどまる(2022年5月13日付ビジネス短信参照)。多くの企業で、ハイブリッド勤務が継続していることは間違いなさそうだ。

ではそもそも、米国ではどのような経緯で、リモート勤務が一般的に取り入れられるようになってきたのか。

新型コロナ感染症が流行し始めた2020年3月以降、各州政府や自治体は事業や行動に規制を導入し始めた。より具体的には、(1)事業所を一時的閉鎖するよう義務付けまたは推奨したり(「生活に必要不可欠」と指定した業種を除く)、(2)市民に外出を控えるよう推奨したりした。そのため、リモートが可能な職種では、在宅勤務への移行を余儀なくされた。

その後、ワクチンの普及などに伴って経済活動が徐々に再開。それにつれて、オフィスの収容人数にかかる制限が緩和された。例えばニューヨーク州では、2021年5月に収容率上限を50%から75%に引き上げ。翌6月には、ワクチン接種者であればオフィスの収容定員まで出社できるようになった。

一方で、同年12月下旬からニューヨーク市などでは、出社する従業員(およびオフィスや店内に立ち入る顧客など)にワクチン接種証明の提示を求めることが義務付けられた(2021年12月17日付ビジネス短信参照)。この義務は業種を問わず、全ての事業者が対象とされた。しかし、その後、新規感染者数が減少。それに伴って、ニューヨーク州は2022年2月10日、ワクチン接種証明の提示やマスク着用義務を原則として廃止し(注3)、それ以降の規制は、各市や各事業に委ねられたかたちだ。こうして、米国の経済活動は再開に向けて本格的な進んだ。

しかし、リモートワークでも業務が遂行できる場合、オフィスの賃貸契約を解約するケースも散見されるようになった。規制により稼働率が低下したオフィスの賃料を払い続けることを避けたとみられる。デジタルドットコムのアンケート調査外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます(2021年8月実施、注4)によると、69%が2020年3月以降に1カ所以上のオフィスを恒久的に閉鎖。全オフィスを恒久閉鎖した事業者も37%に上る。全オフィスを恒久閉鎖した理由として、「過半数の従業員がリモートワークの継続を希望しているため」(69%)、「コスト削減のため」(53%)、「リモートワーク時の従業員の生産性が出社時と同等かそれ以上のため」(51%)、「従業員の健康を守るため」(45%)と回答した。さらに、オフィスを保持する企業の51%は、「従業員がフルタイムでリモートワークをし続けることを無制限で許可する」とした。

米北東部にオフィスを構える製造業の日系企業では、オフィスでの勤務体制に関するジェトロからの照会に対し、「オフィスを完全に閉鎖することはない。ただし、今後、従業員を事務所に戻すという方向では考えていない」と回答。なお、同社では出社を義務付けていないため、完全リモートの従業員もいるという。それでも、「従業員の生産性は出社時と変わらない」とのことだった。

完全リモート勤務が全面的に支持されているわけではない

リモート勤務への移行がとくに先行するのは、テック系の業種だ。その業界団体、北米テクノロジー・カウンシル(TECNA)は2022年5月、コロナ禍での雇用に関する調査PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)(553KB)を公表した。この調査によると、2020年1月以降、完全リモートの求人件数は、テック系で約5.2倍(421%)に上昇した。ちなみに、全職種平均では約3倍(195%)。リモート勤務が広く採用されるようになった中で、とくにテック系業種で際立つことが読み取れる。

もっとも他の業種では、かなり違った図式が見えてくる。全米大学雇用者協会(NACE)は2022年2~3月、TECNA同様にNACE会員企業と教育機関などから得た2022年の採用見通しに関する調査外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます(注5)を実施した。この調査によると、新卒を含むエントリーレベルの求人は、42%が完全出社、40%がハイブリッド勤務、18%が完全リモートとなることを想定しているとのことだった。

一方で、雇用される方はどう受け止めているのだろうか。米人材クラウド会社のアイシムスは、2020年から2022年春までに米国で学士号を取得した卒業生が希望する雇用待遇に関する調査PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)(2.3MB)を実施した。この調査によると、対象者の69%がリモートワークを希望している。もっとも同時に、90%は「職場に出社してもよい」と回答した。また、米人材会社ラサールネットワークによる2022年度に卒業予定の大学生を対象とした調査外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます(注6)では、11%が完全リモート、60%がハイブリッド勤務を希望していた。

一方で、アイシムスの2021年度卒業生を対象とした調査外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます(注7)によると、完全リモートの希望者はわずか2%にとどまる。この点、人材マネジメント協会(SHRM)は、(1)コロナ禍でリモート授業を受けてきた新卒者にしてみると、オンラインでの意思疎通に倦怠(けんたい)感がある、(2)対面での勤務で得られるメリットに期待を抱いている面もある、と分析した。

元通り出社を前提にするのも難

しかし、企業が既存の従業員に対して出社再開を求めても、それを義務付けるのは難しい場合もあるようだ。例えば、既存の従業員を引きとどめるために、2021年に計44億ドルの追加報酬を支払ったというゴールドマンサックスでは、2022年5月からパートナー職とディレクター職には無制限の年休を提供し、それ以外の従業員にも、年間少なくとも3週間の年休を消化させるとした。これらの柔軟な有給休暇制度を設けたのは、同社が従業員に完全出社を求めているということも背景にある(「ウォールストリート・ジャーナル」紙電子版5月17日)。

グーグルも従業員に対し、2022年4月から週3日の出社を求めている。ただし、これは義務ではなく、「100%応じてもらえるとは予期していない」とのこと。実際、無期限のリモート勤務申請に対し、85%を承認したという(「CNBC」4月3日)。

米北東部に在米拠点を構える日系企業(卸業)では、ジェトロからの照会に対し、2022年6月から事務所において、毎週サプライズを用意しており、従業員にベーグルやアイスクリームなどを提供しているという。これは、業務内容にかかわらず、オフィス従業員全員に週3日の出社を求めているためだそうだ。また、米国企業では交通費は通常支給されないことが通例ではあるものの、ガソリン代の高騰に対して向けられる従業員の不満を緩和することも目的としている。同社は、もともと離職率は低いとした上で、完全リモートを導入しない理由として、「インパーソン(対面)のほうが会議の際のディスカッションも活発で、モチベーションが高いと感じられる」と回答した。

在米日系企業でも主流はハイブリッド

ジェトロが2021年秋に実施した「海外進出日系企業実態調査(北米編)」の「2021年9月1日時点の勤務体制」に関する回答を見てみたい(図参照)。851社の在米日系企業から得た回答のうち、事業所に出社しなければならない従業員が比較的多いと見込まれる製造業を除いた、非製造業363社から得た結果では、「主にリモートワークとし、出社も一部実施」(27.9%)との回答が最も多かった。これに、「リモートワークと出社を同じ割合で実施」(19%)、「主に出社でリモートワークも一部実施」(17.9%)を合わせると、在米日系企業では65%程度の企業がハイブリッド勤務を取り入れていることがうかがえる。

図:2021年9月1日時点の勤務体制(在米日系非製造業)
図は2021年度に実施した、ジェトロ「海外進出日系企業実態調査」において、非製造業の日系企業が当時の勤務体制に関する回答に基づき、全体に占める割合を表したものである。「原則として全員が出社」は24.6%、「主に出社とし、リモート勤務も一部実施」は17.9%、「リモート勤務と出社を同じ割合で実施」は19%、「主にリモート勤務とし出社も一部実施」は27.9%、「原則として全員がリモート勤務」は9.2%、「その他」は1.4%となっている。

出所:ジェトロ「海外進出日系企業実態調査」2021年度

なお、ジェトロ「海外進出日系企業実態調査」は毎年秋に実施している。最新の結果では、どのような変化が見られるか、注目される。


注1:
調査の対象者は、居住地や人種、性別など全米の人口動態に比例するよう均等に選定。
注2:
当該調査の対象は、市内企業160社。標本数があまり多くないことには注意。なお、調査を実施したパートナーシップ・フォー・ニューヨーク・シティーは、ニューヨーク市に所在する非営利会員組織。
注3:
マスク着用義務廃止の対象は、公共交通機関や教育機関などを除く。
注4:
当該調査の対象は、新型コロナ禍以前に少なくとも数人が在勤するオフィスを構えていた米国企業1,250社。
なお、デジタルドットコムは、米国でレビューサイトを運営する事業者。
注5:
NACEの調査では、会員企業や教育機関160社・機関、非会員企業36社が回答した。標本数があまり多くない点には要留意。
なお、NACEの会員には、教育機関のほか、伝統的な企業も含まれる。
注6:
2,500人の大学生を対象とした調査。
注7:
500人を対象とした調査。
執筆者紹介
ジェトロ・ニューヨーク事務所
吉田 奈津絵(よしだ なつえ)
在米の公的機関での勤務を経て2019年からジェトロ入構。

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