米国境管理措置「タイトル8」へ移行、ニューヨークで移民受け入れ対策進む、支援疲れも
(米国)
ニューヨーク発
2023年05月15日
米国では5月12日から、無許可入国者や米国滞在の法的根拠を確立できない者を強制送還する「タイトル8」(注1)に基づく移民受け入れ態勢に移行した(2023年5月11日記事参照)。亡命希望者の主要な受け入れ先となっているニューヨーク州では、急増を見越して、州政府やニューヨーク市などが対策を進めている。
ニューヨーク州のキャシー・ホークル知事(民主党)は9日、「タイトル8」への移行を前に、ニューヨーク市に到着する亡命希望者への支援に関する行政令を発令した。同州政府は2024年度予算で、ニューヨーク市が亡命希望者を支援するために10億ドル超を確保していた。今回の行政令により、これら資金を迅速に利用することが可能になる。同予算には、亡命希望者の収容保護施設の運営費用(7億4,100万ドル)をはじめ、亡命希望者が到着するバスターミナルや収容施設などの運営支援を行う州兵の継続的な駐留支援(1億6,200万ドル)、健康保険に加入できない住民に低価格・無償の医療サービスを保証する「NYCケア」の提供(1億3,700万ドル)、公的支援(2,600万ドル)、亡命者家族の永住施設への自主的な転居(2,500万ドル)のための費用などが含まれている。
ホークル知事は行政令の発令に関するプレスリリースで「1年以上前からニューヨーク市のエリック・アダムス市長と緊密に協力し、市に到着する大量の亡命希望者に対処する支援を提供してきた」と経緯に触れ、「タイトル42(注2)の終了で、現場の状況に大きな変化が予想される中、今回の行政令は市と協調した対応の重要な一部分となる」とニューヨーク市との連携を強調した。
ニューヨーク市のアダムス市長も5日、亡命希望者に対し、同市近郊の収容保護施設を提供する新たなプログラムを発表した。同プログラムは、既に市の保護を受けながら亡命を希望する未婚の成人男性を対象に、最大4カ月の一時収容施設や人道支援を提供するもの。まずは同市近郊にある2つのホテルで開始し、今後拡大する可能性があるとしている。転居は任意で、プログラム参加者には、市内からホテルまでの交通手段も提供する。市内の収容保護施設の収容能力は過去最高水準に達しており、さらなる亡命希望者を受け入れるには、既存施設のスペースを空ける必要がある。既に第1陣が市内の収容施設から市外のホテルに移ったもようだ(「ニューヨーク・タイムズ」紙電子版5月11日)。
ニューヨーク市によると、2022年春以来、6万人超の亡命希望者が同市に到着、滞在先を提供され、現時点で3万7,500人以上の亡命希望者が保護を受けている。同市では緊急避難所としてこれまでに122のホテルを開放、8つの人道支援センターを運営するほか、亡命希望者の子供たちの公立学校への就学支援などを実施している。
アダムス市長は発表に際して「この新しい自主的なプログラムは、亡命希望者がニューヨーク州で安定した生活を築けるよう、仮住まい、サービス利用、地域コミュニティーとのつながりを提供するものだ」とその意義を強調する一方、「これらの行動は、われわれが国家レベルの移民減少策、財源、迅速な労働許可、議会による移民法改革など、緊急の行動を必要としないことにはならない」として、市独自の対策の限界を指摘し、連邦政府や州政府、連邦議会による行動の必要性を訴えた。
(注1)USC第8章に規定されており、行政府に対して、許可なく米国に入国した者および米国滞在の法的根拠を確立できない者を国外退去させることに加え、将来的な移民手続きも禁じるなどの権限を与えている。
(注2)USC第42章に規定されており、行政府に対して、外国からの入国者を経由した感染症防止のために移民の入国を制限する権限を与えている。トランプ政権時の2020年3月に新型コロナウイルスの感染拡大を理由に発動され、亡命申請者を米国内に滞在させず即時に本国へ強制送還する根拠となった。
(米山洋)
(米国)
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