超党派イノベーション法案、議会夏季休会前の成立が不透明に

(米国、中国)

ニューヨーク発

2022年07月11日

米国連邦議会では、520億ドルの半導体産業向け補助金予算を含む「超党派イノベーション法案(BIA)」の内容が調整されているが、議会の夏季休会前の法案成立が不透明な状況となっている。

BIAは元々、中国との長期的な競争を念頭に米国の産業競争力を強化することを主な目的とした法案だ。上院で20216月に「米国イノベーション・競争法案(USICA)」として、下院で20222月に「米国競争法案(America COMPETES Act)」としてそれぞれ可決されたが、両法案に含まれた通商関連条項を中心に相違点が多いため、両院合同委員会での調整が必要となった。議会は4月に、合同委員会に参加する107人の議員を指名し、512日から正式に調整作業を開始させた(2022年4月11日記事参照)。

しかし、目立った進展が見られない中、ここにきて共和党から法案の早期成立を不透明にさせる動きが出てきている。上院共和党トップのミッチ・マコーネル少数党院内総務(ケンタッキー州)は、630日に自身のツイッターで「民主党が党派的な財政調整措置法案を追求する限り、超党派のUSICA(注1)はあり得ない」と発言した。ここでマコーネル議員が言及した「財政調整措置法案」は、ジョー・バイデン大統領の肝いりで民主党が策定した「ビルド・バック・ベター(BBB)法案」を指している。民主党は財政調整措置(注2)を利用して同法案の単独での成立を試みたが、上院民主党の保守派であるジョー・マンチン議員(ウェストバージニア州)が202112月に反対を表明して以降(2021年12月23日記事参照)、同議員も納得する内容への再調整が行われている。政権と議会民主党としては、202211月の議会中間選挙に向けたアピール材料として、BBB法案も成立させたいところだが、BIAとの2択を迫られたかたちとなる。

また、上院共和党のマイク・ブラウン議員(インディアナ州)ら5人が75日、合同委員会の上院メンバーに対して、BIAに含まれる対中通商条項に変更を加えるべきとの書簡PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)を送った。具体的には、上院可決のUSICAに含まれている、対中追加関税(注3)の適用除外手続きに関する条項があまりに広範なため、中国の不公正貿易慣行に対抗する手段としての追加関税が意味を持たなくなると主張している。対中追加関税については、バイデン大統領が近く一部撤廃を含めた見直しを発表するとの憶測も出ており、5議員の動きはそれを牽制する狙いもあるとみられる(2022年7月6日記事参照)。BIA調整においても検討要素が増えたことになり、7月中の調整完了がより困難になりそうだ。

(注1)法案の呼称について、両院合同委員会の開始後は、BIAが一般的になっているが、議員によっては引き続きUSICAまたは、America COMPETES Actを使う場合がある。

(注2)上院では通常、法案可決には議事妨害(フィリバスター)を抑え込むため、クローチャー(討論終結)決議に必要な60票の賛成が必要となる。ただし、歳出・歳入・財政赤字の変更に関する法案については、財政調整措置(リコンシリエーション)を利用し、過半数での採決が可能。賛否が50票同数の場合、議長を務める副大統領の1票で採決となる。

(注31974年通商法301条に基づいて、トランプ前政権下の20187月以降、米国が中国原産品の輸入に課している追加関税。

(磯部真一)

(米国、中国)

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