欧州委、ガス共同調達に向けた政策文書とガス備蓄を義務付ける規則案を発表
(EU、ロシア、ウクライナ)
ブリュッセル発
2022年03月24日
欧州委員会は3月23日、欧州理事会(EU首脳会議)が24~25日に開かれるのを前に、安価なエネルギーの安定供給に向けた短中期的な政策に関する文書を発表(プレスリリース)した。EUは、ロシアによるウクライナ侵攻以降、ロシアからのエネルギー輸入依存からの脱却を鮮明にしており(2022年3月14日記事参照)、今回の政策文書は、来冬に向けてEUレベルと加盟国レベルで検討すべき措置を提示するものだ。
欧州委は、ガス供給に関する共通戦略に合意する緊急の必要があるとして、新たにガスの共同調達を提案した。新型コロナウイルスワクチンの共同調達を成功例としてあげ、EUがガス輸入を共同で実施することで、産出国との交渉において優位に立つことができ、加盟国間の競争も回避できることから、最良の条件でのガス輸入を実現できるとしている。ガスの共同調達に向けたタスクフォースの設置準備も既に整っており、加盟国間で共同調達が合意されれば、タスクフォースは、短期的に安価な液化天然ガス(LNG)、天然ガス、水素を域外国から輸入できるよう、長期的なエネルギー・パートナーシップの締結も視野に、アフリカや中東諸国、米国とその準備に入るとしている。
このほか、欧州委は、エネルギー価格の高騰に関して、加盟国が取り得る短期的な措置(2021年10月14日記事、2022年3月11日記事参照)についてもあらためて言及。エネルギーの最終消費者に対する金銭的補償は、既に26の加盟国で実施済み、また、多くの加盟国でエネルギーへの付加価値税(VAT)の軽減税率も導入済みとした。現行法上、加盟国が取り得る措置をより明確にするため、欧州委は3月22日、企業向け支援として、EU国家補助ルールの新たな「危機対応暫定枠組み」も採択。エネルギー税制のさらなる活用に向けた指針の策定を検討しているとした。
最低限のガス備蓄を義務付ける法案も発表
欧州委はまた、ガス備蓄に関するEUの共通政策として、最低限の備蓄量を設定するガス貯蔵に関する規則案を発表した。同規則案は、加盟国に対して、2022年11月1日までに自国に設置されたガス貯蔵施設の備蓄上限の8割の備蓄を義務付けるものだ。年間を通じた複数の中間目標を設定するとともに、2023年11月以降は、備蓄義務を9割以上に引き上げる。加盟国は備蓄義務の履行に向けて、ガス貯蔵施設事業者に対して、金銭的なインセンティブや補償を含めてあらゆる手段を講じることが求められる。
また、エネルギーの安定供給はEU全体の共通利益であることから、ガス貯蔵施設がない加盟国に対しても、負担の分担策として、自国のガス年間消費量の15%相当以上を他の加盟国のガス貯蔵施設事業者から確保することなどを求める。さらに、ガス貯蔵施設はエネルギー供給の安全保障の観点から重要なインフラとして、ガス貯蔵施設事業者に対する認定制度を創設する。事業者は、ガス貯蔵施設の所在地の加盟国当局から、事業者が域外国の企業であることや域外国との契約などに起因する安定供給に対するリスクがないことの認定を受けなければならず、リスクが解消されない場合は、事業者はガス貯蔵施設の売却を求められる。この規則案は今後、EU理事会(閣僚理事会)と欧州議会で審議される。
(吉沼啓介)
(EU、ロシア、ウクライナ)
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