欧州委、域内での半導体の研究開発・生産の強化と安定供給を目指す法案を発表

(EU)

ブリュッセル発

2022年02月10日

欧州委員会は2月8日、EU域内での最先端半導体の研究開発、設計から生産までのエコシステムの確立を目指す欧州半導体法案外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますとその政策文書外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますを発表(プレスリリース外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)した。世界的な半導体の供給不足や、域内の供給の多くを東アジアからの輸入に依存していることなどを背景に、欧州委は2030年までに次世代半導体の域内生産の世界シェア20%以上を目標とする(2021年3月12日記事参照)など、この分野での技術的な主権の確保を目指している。こうした中で、今回の政策文書は、(1)研究開発、(2)設計から製品化、(3)量産の各段階の能力強化、(4)人材不足対策、(5)半導体サプライチェーンの監視と危機対応、を戦略的目標として設定。520億ドルを供出する米国の半導体支援法案など(2022年1月26日記事参照)を意識し、EUと加盟国の公的支援に民間投資を加えた投資規模に関して、2030年までに430億ユーロ以上を見込むとしている。

戦略目標を実現すべく提案された半導体法案の3本柱

(1)「半導体のための欧州イニシアチブ(Chips for Europe Initiative)」の設置:EUと加盟国が110億ユーロ規模の公的資金を共同で拠出し、民間投資も活用することで、次世代半導体の技術開発や試作の生産ラインなどの強化を図る。イニシアチブの実施は、新たに立ち上げる官民協働型の「欧州半導体インフラコンソーシアム(ECIC)」が担う。

(2)半導体の安定供給に向けた支援枠組みの設定:この枠組みには、現時点で域内に存在しない、あるいは建設が予定されていない「域内初(first-of-a-kind)」となる半導体生産施設の基準が設定されており、こうした施設の設置を今後予定する事業者は欧州委による審査を経て認定を受けることができる。この認定を受けた施設は、半導体の安定供給の観点から公益性を有するとして、当該施設の計画、建設、稼働に際して、加盟国による迅速な審査などの優遇措置を受けることができる。また、既存の国家補助ルールの審査を受けるものの、場合によっては加盟国からの国家補助を受けることも可能としている。

(3)半導体の安定供給に向けた監視と危機対応:欧州委と加盟国は共同して、半導体のサプライチェーンを監視し、半導体不足につながる供給上の深刻な混乱がみられる場合には、欧州委は危機段階を宣言することができる。危機段階が宣言された場合、欧州委は、半導体の各事業者に対して、生産能力などの情報提供を義務付けることができる。また、欧州委は必要に応じて、上記の認定を受けた施設、公的支援を受けた施設、既に域外国から優先生産命令を受けている域内の施設に対して、危機的な状態にある半導体や原材料などの製品の増産と域内への優先供給を命ずることができる。さらに、欧州委は加盟国を代表して、これらの製品を共同調達することも可能となる。

半導体法案は今後、EU理事会(閣僚理事会)と欧州議会で審議される。

なお、半導体法案は国家補助ルールを修正するものではないが、欧州委は競争法の今後の方向性に関する政策文書(2021年11月19日記事参照)を参照した上で、投資誘因効果があり、必要性、適当性、比例性を満たす場合には国家補助は承認され得るとし、その判断においては半導体法案で定義された「域内初」の施設である点も考慮するとしている。

(吉沼啓介)

(EU)

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