欧州委、グリーン化・デジタル化に寄与する競争政策の方向性示す
(EU)
ブリュッセル発
2021年11月19日
欧州委員会は11月18日、EUの競争政策の今後の方向性を示したコミュニケーション(政策文書)を公表した。競争政策は、EUがグリーン化やデジタル化を推進する上で重要なツールであるとして、これに対応する法改正やガイドライン策定などの予定を示した。
総論では、EU競争法の各種ツールの見直し状況について紹介している。例えば、カルテルや企業結合の影響を測る上の基本概念である「市場」の定義について、1997年に欧州委が策定した解釈指針では、サプライチェーンの変化やデジタル化に対応したビジネスモデルに対応していないと指摘し、遅くとも2023年第1四半期(1~3月)までに定義を見直すとした。また、生産性や技術の進歩に貢献し、かつ消費者がその利益を公平に享受することなど要件を満たす場合に、企業間の特定の取り決めについて一括してカルテル行為に該当しないことを認める「一括適用免除」の各規則について、主要な規則が2022年中に適用期限を迎えるため、企業活動への法的確実性の観点から、期限前の改正に向け準備を進めていることを確認した。
グリーン化については、必要な投資を拡大すべく、環境保全やエネルギーに関する国家補助ガイドラインの見直し、道路輸送に比べ環境負荷の小さい輸送手段として欧州委が強化を図る鉄道交通に関する国家補助ガイドラインの見直し、グリーン化対応の遅れている地域の支援に特化した地域的国家補助ガイドラインの新設など、EUの国家補助ルールの明確化に重点を置いている。国家補助ルールの見直しを通じて脱炭素プロジェクトへの公的支援を柔軟に認める一方で、化石エネルギーへの支援については厳格化し、フェーズアウトを促す。また、カルテルや企業結合の分野でも欧州グリーン・ディールの目的に沿った競争法の執行を強化するとし、その具体例として、2021年7月に自動車排出ガス制御装置の開発に関するカルテル認定(2021年7月9日記事参照)を挙げた。
デジタル化に関しても、ブロードバンドの地方への普及を図るべく新たな国家補助ガイドラインを策定することなど、グリーン化と同様に競争政策を通じて投資を促進するとしている。執行面では、引き続き大手プラットフォーマーに対する規制を強化していくとし、2021年11月10日にEUの一般裁判所が2017年に米国グーグルによるオンラインサービス上の慣行に対し24億ユーロの制裁金を課した欧州委の判断を支持した例を挙げて、欧州委のアプローチが法的にも正当であることが確認されたと評した。さらに、2020年12月に欧州委が発表したデジタル市場法案(2020年12月22日記事参照)が成立すれば、同法とEU競争法とが連携してデジタル上の競争確保に取り組みことになると指摘した。
グリーン・デジタルに共通する政策としては、イノベーションの必要な重点産業への複数の加盟国による共同支援を可能にする「欧州共通利益に適合する重要プロジェクト(IPCEI)」を一層推進するため、欧州委は別途IPCEI国家補助ルールに関するコミュニケーションを発表する予定だ。
(安田啓)
(EU)
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