欧州委、IT大手への規制を大幅に強化するデジタル市場法案を発表
(EU)
ブリュッセル発
2020年12月22日
欧州委員会は12月15日、デジタルサービス法案(DSA)(2020年12月22日記事参照)と対をなすデジタル市場法案(DMA)を発表した。DMAは、EU競争法を補完するかたちで、米国IT大手による不当な条件の設定やデジタル市場の開放性を損なう行為を規制することで、スタートアップなどによる技術革新を促し、EU企業のデジタル分野での競争力強化を目指すものだ。
DMAの規制対象となるのは、マーケットプレイス、サーチエンジン、SNS、ビデオ共有、インスタントメッセンジャー、OS、クラウド、広告などの「コア・プラットフォーム・サービス」をEU域内で提供する事業者のうち、以下の基準を全て満たし、欧州委により「ゲートキーパー」の指定を受けた事業者に限定される。
a.欧州経済領域(EEA)での過去3年間の年間売上高が65億ユーロ以上あるいは前年の株式時価総額が650億ユーロ以上、かつ3つ以上の加盟国でサービスを提供する。
b.コア・プラットフォーム・サービスのEU域内の月間平均利用者が4,500万人以上かつ年間のビジネスユーザーが1万社以上。
c. b.の基準を過去3年間満たすこと。
また、欧州委は、上記の基準を全て満たさない事業者であっても、市場調査に基づき、参入障壁、保有データに基づく優位性、利用者の囲い込み状況、市場の構造的特徴、将来性などを考慮した上で、ゲートキーパーに指定することができる。
ゲートキーパーに指定された事業者には、自社が提供するサービスやそのデータの取り扱いなどに関して、以下を含む幅広い禁止義務が課されることになる。
- コア・プラットフォーム・サービスのビジネスユーザーから得たデータを、ビジネスユーザーとの競争において利用すること
- ランキングサービスにおける自社が提供する商品やサービスの優遇措置を設けること
- 利用者に選択肢を提供し、かつ同意を得た場合を除き、ゲートキーパーが提供するサービスを通じて収集した個人データを別のサービスの個人データと統合すること
また、以下を含む行為を利用者に対し、許可することが求められる。
- コア・プラットフォーム・サービス上にプレインストールされているアプリなどの削除や他社製のアプリなどのインストールとその利用
- ビジネスユーザーや利用者がプラットフォーム上で生み出したデータを当該ビジネスユーザーへ提供すること
- プラットフォーム外でのビジネスユーザーと利用者間での契約締結
さらに、欧州委は委任立法により、新たな義務を追加することが認められる。
このほか、ゲートキーパーは他のデジタル企業を買収する場合、既存の競争法の規定にかかわらず、欧州委に事前通知をする必要がある。
DMAは、ゲートキーパーに対する広範囲にわたる市場調査の権限を欧州委に与えており、欧州委はその調査において、ゲートキーパーに組織的な違反があり、さらにその優位な地位を強化したと認められる場合には、一定の行為の実施を求める問題解消措置だけでなく、場合によっては事業や資産の売却を含む措置を課すことができる。さらに、ゲートキーパーによる義務の不履行の場合には、前年度総売上高の10%を上限に制裁金を科すことができる。
DMAは今後、EU理事会(閣僚理事会)と欧州議会で審議されることになるが、IT大手だけでなく米国商工会議所なども懸念を示しており、成立までには紆余(うよ)曲折が予想される。
(吉沼啓介)
(EU)
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