米USTR、対中政策の再編第1弾を発表、2国間対話追求する意向
(米国、中国)
ニューヨーク発
2021年10月05日
米国通商代表部(USTR)のキャサリン・タイ代表は10月4日、バイデン政権の対中政策に関して、米シンクタンクの戦略国際問題研究所(CSIS)で講演を行った。中国との通商協議を新たに行う意向を示し、対中追加関税について適用除外手続きを再開すると発表した。
タイ代表は冒頭、米中関係を「複雑で競争が激しい」と述べ、バイデン政権として2国間の競争を「責任を持って対処する必要がある」と強調した。また、両国関係の推移について、1970年後半以降、中国の対米輸出は飛躍的に伸び、中国がWTOに加盟した2001年12月の後は、中国がWTOの法規範を順守せず、中央集権的な経済モデルを強化しているとの見方を示した。
対中追加関税の適用除外申請を再開、撤廃縮小は示さず
タイ代表は今後の対応として、米中による第1段階の経済・貿易協定(2020年1月16日記事参照)の実施状況について、中国との対話に着手すると発表した。同代表は「(同協定は)米農産品の(対中)輸出など、市場を安定化させた」一方、中国が協定の義務を果たしていない分野があると指摘する(注1)。協定の評価としては、トランプ前政権の失策とは必ずしも位置付けず、「今後の対中政策の出発点」と述べた。また、協定に関する対話と同時進行で、中国の産業政策についても協議を行う意欲をみせた。
加えて、1974年通商法301条(以下、301条)に基づいて発動済みの対中追加関税について、国内の適用除外手続きを再開する。USTRのファクトシートによると、追加関税が課されている品目(注2)について、米国民の負担となる関税効果を軽減するよう手続きを再開する。適用除外は現在、新型コロナウイルス対策の医療関連品目のみに絞られており、産業界や米議会から申請手続きの再開を求める声が上がっていた(2021年9月28日記事参照)。タイ代表は講演前の取材に対し、「301条に基づく関税は効果的な政策を生むツール」と述べ、今後の土台として継続活用する方針を明かしている(政治専門誌「ポリティコ」9月30日)。タイ代表は講演後の質疑応答で追加関税の(拡大または縮小)見直しの可能性を問われた際、「301条は重要な通商執行の手段」と述べ、米国の懸念への対応や米経済の利益保護のため、利用可能な全ての選択肢を検討すると答えた。
そのほか、中国の国家主導かつ非市場的な貿易慣習については、第1段階の合意で対処されていないとして、引き続き問題視する。具体的な懸念として、タイ代表は鉄鋼や太陽光発電、農業、半導体などの分野を挙げた。公平な貿易ルールの形成に向けては、航空機補助金をめぐるEU・英国との協力(2021年6月18日記事参照)や、9月末に開催された米EU貿易技術評議会(2021年9月30日記事参照)、日本と米国、オーストラリア、インド4カ国の「QUAD(クアッド)」(2021年9月28日記事参照)や、G7、G20、WTOなどに言及し、同盟国との連携を続けるとした。
(注1)協定では、中国が発効から2年間かけて追加で2,000億ドルの米国産品(物品や農産品、エネルギー資源、サービス)を購入・輸入する義務を負う。米国のピーターソン国際経済研究所の分析によると、協定で約束された購入品目について、中国の対米輸入額は2020年で999億ドル(目標1,731億ドル)、2021年で894億ドル(目標1,299億ドル)となっており、協定目標の達成率はそれぞれ58%と69%にとどまる(2021年8月時点)。
(注2)対中追加関税の対象品目については、USTRウェブサイト参照。これまでの適用除外手続きに関する経緯については、添付資料参照。
(藪恭兵)
(米国、中国)
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