気候保護法改正案を閣議決定、気候中立達成を5年前倒しの2045年に
(ドイツ)
デュッセルドルフ発
2021年05月24日
ドイツ連邦政府は5月12日、スベニャ・シュルツェ環境・自然保護・原子力安全相が提出した気候保護法(注1)の改正法案を閣議決定した。改正法案では、主に温室効果ガス(GHG)排出削減目標の修正と、気候中立達成時期の前倒しを定めた。
背景には、連邦憲法裁判所が4月29日の判決で、気候保護法の2031年以降のGHG排出削減措置は不十分で、同法の削減目標は基本法(憲法)が保障する将来世代の自由権を侵害するとして、違憲とした経緯がある。同法では、2030年までにGHG排出を少なくとも1990年比55%削減と規定する一方、パリ協定で定める目標を達成するためのGHG排出削減への対応の大部分が2031年以降に先延ばしになっていた。そのため、2031年以降に急激な排出削減が必要になるとして、同裁判所は議会に対し、将来世代への負担押し付け回避のため、2022年末までに2031年以降のGHG排出削減目標の詳細を規定すべきと述べていた。
この判決を受けた気候保護法改正法案は、2030年までに1990年比で少なくとも55%の排出削減目標を65%に引き上げるほか、新たに2040年までに少なくとも88%の削減を中間目標として定め、気候中立の達成を2050年から2045年に前倒しする(添付資料表1参照)。さらに、2050年以降はカーボンネガティブ(注2)を目指す。改正法案は2030年から2040年までの毎年の削減目標を定めるが、政府は遅くとも2032年に2041年から2045年までの目標を提出する。また、改正法案では、2030年までのエネルギー産業や製造業、建築、交通、農業、廃棄物その他の6つの分野における二酸化炭素(CO2)許容排出量も厳格化した(添付資料表2参照)。CO2削減が最も大きいのは、削減コストが最小かつ排出量が最大のエネルギー産業と製造業。各分野の2030年以降の目標は2024年に決定する。このほか、気候問題の専門委員会が2022年以降、隔年で排出量の傾向や目標達成に向けた対策の有効性に関する報告書を連邦議会(下院)と政府に提出することになる。
シュルツェ環境相は「改正法案により、世代間公平や計画立案に関する確実性を高め、経済を圧迫しないが、経済を変革・近代化する毅然とした気候保護となる。つまり、気候保護目標の厳格化ではなく、気候変動の危機を和らげるための打開だ」と述べた。一方、経済団体からは「(9月の)連邦議会選挙に向けた選挙対策だ」「戦略や現実的な計画が欠如している」などの批判の声も出ている。
なお、政府は今後数週間以内に、上記6分野の目標実現支援のため、最大80億ユーロ規模の緊急プログラムを策定する予定だ。
(注1)2019年9月に採択された2030年までの「気候変動対策パッケージ」(2019年10月1日記事参照)を実行するために同年に制定、施行された法律。
(注2)CO2をはじめとするGHGの削減・吸収量が排出量を上回る状態のこと。
(ベアナデット・マイヤー)
(ドイツ)
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