欧州委、英国に離脱協定の義務不履行の是正を求める手続きに着手
(EU、英国)
ブリュッセル発
2021年03月16日
欧州委員会のマレシュ・シェフチョビチ副委員長(EU機構関係・将来展望担当)は3月15日、英国がEU離脱協定およびアイルランド・北アイルランド議定書(以下、議定書)に違反しているとして、英国に対する義務不履行手続きに着手したと発表した。英国政府が3月3日から4日にかけて、グレートブリテン島から北アイルランド向け食品移送や小包送付に関する緩和措置の延長をEU側との合意を得ずに判断した(2021年3月5日記事、3月9日記事参照)ことに対抗する措置だ。手続きの第1段階として15日、欧州委は英国に「公式通知状」を送付し、1カ月以内に「見解」の表明を求めた。
制裁金や、通商・協力協定に基づく義務の停止の可能性に言及
今回の公式通知状送付に始まる行政的な手続きで問題が解決しない場合、欧州委は、EU司法裁判所に提訴し、英国に対し制裁金を求めていく可能性も辞さないと警告を発した。議定書では、英国離脱後もEU・英国間の特定の紛争に限り、EU司法裁判所の管轄権が及ぶことが規定されており、争点となる議定書第5条(通関手続き)への違反も同管轄権の対象に当たる。
同時に、シェフチョビチ副委員長は、離脱協定を実行に移すためのEU・英国合同委員会およびEU・英国間の通商・協力協定(TCA)下に設置された両者のパートナーシップ協議会の共同議長として、自身のカウンターパートであるデイビッド・フロスト内閣府担当相に対し、合同委員会の場で事態の解決を求める書簡を3月15日付で送付したことも明らかにした。書簡では合同委員会における合意なしに単独で緩和措置を延長するとした英国の判断は、議定書第5条に加え、離脱協定本文の第5条(信義誠実原則)にも違反すると指摘し、英国が3月3、4日に発表した措置を是正し、合同委員会において双方が合意できる解決策を見いだしていくよう求めた。その上で、英国政府が3月末までの解決を目指して合同委員会での協議に入ることを拒否する場合、離脱協定の紛争解決手続きを開始する意向を表明した。欧州委の発表文書では、仮に離脱協定に基づく紛争解決手続きが進み、同手続きが規定する仲裁パネルにおいて制裁が認められ、それでもなお英国が是正に応じない場合や制裁に従わない場合には、TCAの義務の停止も可能になるとし、具体的な措置として英国産品のEUへの輸入における関税賦課を例に挙げた。
EUが英国の離脱協定および議定書への違反を主張して、義務不履行手続きを開始したのは、2020年10月(2020年10月5日記事参照)以来2度目となる。
(安田啓)
(EU、英国)
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