WTO上級委の承認なしに、対抗措置を可能にする改正規則の適用開始
(EU)
ブリュッセル発
2021年02月16日
通商協定の適用・執行に関するEU規則の改正規則が2月13日、適用を開始した。同規則は、WTO協定をはじめとする国際通商協定におけるEUの権限行使の枠組みを規定したもので、今回の改正は、国際通商協定の紛争解決制度が機能しない場合に、欧州委員会が対抗措置を取ることを可能にする。
今回の改正の念頭にあるのは、WTOの紛争処理制度の最終審に当たる上級委員会の欠員による機能停止問題だ(2019年12月12日記事参照)。改正前の規則では、EUとWTO加盟国の間で貿易政策・措置をめぐる紛争が起きた場合に、欧州委が対抗措置を講じるには、当事国間での協議と、WTOの紛争解決小委員会(パネル)、上級委員会の全ての段階を経た上で、対抗措置の承認を受ける必要があった。そのため、上級委員会が機能していない現状では、EUと係争中のWTO加盟国は、パネルの判断に不服申し立てを行うだけで、国際法上の義務を回避し、拘束力あるルールから免れることができてしまう。今回の改正は、このようにWTOの紛争解決制度が機能していない場合に、上級委員会の承認なしに、欧州委がWTO協定税率の適用の差し止めなどの対抗措置を取ることを認めるものだ。
また、今回の改正は、WTOルールに関する貿易紛争に限定されるものでなく、日EU経済連携協定(EPA)などのEUが締結した2国間協定や地域間協定における貿易紛争も対象に含まれる。改正規則は、こうした協定に規定された紛争解決制度において、協定の相手国が仲裁人を選定しないなど、制度が機能するために必要な協力を怠ることで、同制度による解決が図れない場合、欧州委が独自の判断で対抗措置を取ることを認めている。
さらに、改正規則では、対抗措置の対象も拡大される。改正前の同規則では、その対象は物品貿易に限定されていたが、今回の改正により欧州委は、サービス貿易や貿易関連の知的財産権に関する対抗措置も取ることができるようになった。これらは、多くの国際通商協定に含まれる分野であることから、対抗措置の対象をこうした分野に拡大することで、対抗措置の一貫性や効果を高める狙いがある。また近年、EUが締結する通商協定には、環境や労働基準の順守などを規定する「貿易および持続可能な開発(TSD)」章が含まれている。改正規則では、TSD章もEUの通商政策に不可欠とし、一定の条件の下で、TSD章の違反に対しても同規則を適用し、欧州委の判断で対抗措置を発動することができる。
(吉沼啓介)
(EU)
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