欧州委、2050年までに気候中立を目指す新たな政策を公表
(EU)
ブリュッセル発
2019年12月12日
欧州委員会は12月11日、EUとして2050年までに「気候中立(温室効果ガスの排出=ゼロ)」を目指すため、50の行動計画を取りまとめた「欧州グリーン・ディール」のためのコミュニケーション案を採択、公表した。化石燃料への依存や環境汚染と決別し、環境に優しい技術開発やそのための金融システムで「フロント・ランナー」を目指す方針で、経済活動と地球環境の調和を図ると同時に、雇用やイノベーションの機会創出も目指すとしている。欧州産業界はこれに対し、「欧州グリーン・ディール」そのものは支持する姿勢だが、同時に欧州企業の国際競争力や収益性に対する配慮を求めている。
温室効果ガス=ゼロを目標に掲げ、EU産業の主導権確立を目指す
上述のコミュニケーション案によると、「欧州グリーン・ディール」には、先端的な環境配慮型社会への移行を目指す側面と、EU(産業)の世界市場での主導性確立を模索する側面がある。前者は、2050年までにEUとして温室効果ガスの排出=ゼロを実現するための「欧州気候法」を柱に据え、持続可能なスマート・モビリティへの移行、環境に優しい食の安全システム(ファーム・トゥ・フォーク)の確立、生態系や生物多様性の維持・再生など広範な分野での社会変革を含む。後者は、エネルギー・資源の効率的利用、循環型経済に貢献する産業活性化(例:2019年12月10日記事参照)、民間部門の投資誘導を含む金融支援体制を構築し、クリーンで安価・安全なエネルギー供給などを目指す。最終的には、2050年までに温室効果ガス排出を実質ゼロ化する、資源効率的かつ競争力のある経済への移行を掲げる。また、この実現の中間目標として、現在40%削減としている1990年比の温室効果ガス排出目標を、50~55%削減に引き上げるロードマップを掲げている。
欧州委のフォン・デア・ライエン委員長は、12月12日に開催される欧州理事会(EU首脳会議)で、この「欧州グリーン・ディール」について報告する。「欧州気候法」の原案を2020年3月に開かれる欧州理事会で提案、上記の中間目標についても2020年夏までに影響評価を行った上で、具体的な行動計画を準備するとしている。
ビジネスヨーロッパ(欧州産業連盟)は12月11日、「欧州グリーン・ディール」について、経済基盤の上に確立されるべきとの声明を発表。持続可能な将来像を念頭に置く政策を支持・協力するが、その進め方(方法論)については議論の余地があると指摘(2019年11月28日記事参照)する。具体的には「欧州グリーン・ディール」の目指す環境配慮型社会が、欧州産業の成長を阻害し、雇用を減退させるものであってはならないとし、数千億ユーロ規模の投資が必要になると述べた。
この点に関して、欧州委のフォン・デア・ライエン委員長は「誰も取り残さない」をモットーとして、「欧州グリーン・ディール」に伴い、ネガティブな影響を受ける地域や産業分野を対象に、欧州投資銀行(EIB)を通じて1,000億ユーロを拠出する意向も明らかにしている。
(前田篤穂)
(EU)
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