大統領、激変緩和措置を提言し年金改革に理解求める

(ロシア)

欧州ロシアCIS課

2018年08月30日

プーチン大統領は8月29日、テレビを通じて年金改革の必要性を訴えた。「改革は、年金システムを将来にわたり安定的に運用するためのもの」と説明、国民に理解を求めた。

主要な論点は支給開始年齢の段階的な繰り下げだ(2018年6月15日記事参照)。現行の支給開始年齢は原則として男性60歳、女性55歳(注)だが、2020年代以降の労働人口減少を見越し、年金制度改革案では2019年以降、男性65歳、女性63歳に段階的に繰り下げるとしている。法案は6月に連邦下院に提出され、既に1読会での審議を終了しているが、生活水準の低下を懸念する国民から強い反発を受けている。

改革案の背景には、(a)社会経済政策の成功により所得の向上、物価の安定、失業率の低下など改革を実行する環境になったこと、(b)経済の安定や保健分野での施策の充実による平均寿命の伸長が年金の財源確保を困難にしていること、(c)年金支給額は現在でも十分とは言えず今後とも引き上げを図る方針であること、(d)増税や国有資産の売却では増加する年金支給額を補うには不十分と政府が試算していること、などがある。

その一方で、プーチン大統領は国民の反発を考慮し、激変緩和措置を講じる考えを示した。具体的には、(a)女性の年金支給開始年齢の繰り下げ幅を8歳から5歳に縮小し、60歳とすること、(b)子供の多い家庭の場合は、その人数に応じて女性の年金支給開始時期を早めること、(c)移行期間中は年金支給開始前5年以内の従業員の解雇を禁止するための法整備、(d)年金支給開始前5年以内に自己都合で退職した場合の失業手当の増額、などが必要と指摘した。

大統領のテレビ演説を受け、共産党のゲンナジー・ジュガノフ党首は「議会での審議で政府がわれわれの主張を受け入れることを期待する」と述べる一方、「年率1.5%前後の経済成長では年金の原資を捻出するには不十分」として、高額所得者への課税強化や公務員の定数削減などを含めた対策を講じるべきとの考えを示した。反体制活動家のアレクセイ・ナバリヌィ氏の陣営は、「激変緩和措置の有無にかかわらず影響は大きい。また年金支給開始年齢に近い従業員の解雇を禁止する措置は、企業活動に影響が大きい」と批判している。

改革案は、8月27日に会期が始まった連邦下院秋季議会で第2、第3読会が予定されており、さらに審議される見通し。

(注)職種、労働内容などにより年金支給開始時期がこれよりも早くなる場合がある。

(梅津哲也)

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