商務省、鉄鋼とアルミ輸入の関税や数量割当を大統領に提言-通商拡大法232条調査の結果を公表-

(米国)

ニューヨーク発

2018年02月23日

商務省は2月16日、1962年通商拡大法232条に基づいて実施していた、鉄鋼およびアルミニウム製品の輸入が米国の安全保障に及ぼす影響に関する調査結果を公表した。鉄鋼とアルミニウムそれぞれの輸入について、米国の安全保障を損なう恐れがある、との判断を下している。また、是正措置として関税や輸入数量割当の導入を大統領に提言している。トランプ大統領には、鉄鋼に関しては4月11日までに、アルミニウムに関しては4月19日までに、導入する措置の内容を決定し、その後15日以内に各措置を実施することが求められる。

米国の安全保障を損なう恐れがあると認定

商務省は2月16日、鉄鋼とアルミニウム製品の輸入が米国の安全保障に及ぼす影響に関する調査結果を公表外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますした。この調査は1962年通商拡大法232条〔以下232条、19.U.S.C.1862(b)PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)〕に基づき商務省が実施していたもので、対象製品の輸入が米国の安全保障を損なう恐れがある場合に、当該輸入を是正するための措置を取る権限を大統領に与えるものになっている(注1)。

ウィルバー・ロス商務長官は2017年4月19日に鉄鋼について、4月26日にアルミニウムについて、この調査の実施を商務省に命じている。その後、商務省はそれぞれの調査結果を大統領に提出(鉄鋼は2018年1月11日、アルミニウムは1月17日)したが、内容は公表されていなかった。

今回公表された調査結果は、鉄鋼とアルミニウム双方の輸入について、米国の安全保障を損なう恐れがあるとの判断を下している。通商拡大法232条は、大統領に対して、商務省から調査結果の提出を受けた90日以内に輸入是正措置の内容や期間などを決定し、決定後15日以内に当該措置を実施することを求めている。

この規定に基づき、トランプ大統領は鉄鋼製品については4月11日までに、アルミニウムについては4月19日までに措置の内容を決定し、その後15日以内に当該措置を実施することが必要になる。

なお、大統領は商務省の提言を検討した上で、措置の内容や実施期間などを自由に決定することができる。トランプ大統領は2月13日、全ての取り得る措置を検討しているとしながら、雇用創出につながるのであれば、輸入制限による多少の価格上昇は受け入れざるを得ないと述べ、何らかの輸入制限措置を取る考えを示唆している(通商専門誌「インサイドUSトレード」2月15日)。

鉄鋼:カナダ、ブラジル、韓国からの輸入が多い

鉄鋼について商務省は、国内生産を長期的に維持するためには、国内の鉄鋼生産設備の稼働率を現行の73%から約80%に引き上げることが必要とし、輸入について以下のいずれかの是正措置を取ることを大統領に提言している。なお、下記の関税や輸入数量割当は、アンチダンピング(AD)税などその他の既存の輸入制限措置に上乗せして課される。

  1. 全ての国からの鉄鋼製品の輸入に最低24%の関税を賦課。
  2. 特定12カ国(ブラジル、中国、コスタリカ、エジプト、インド、マレーシア、韓国、ロシア、南アフリカ共和国、タイ、トルコ、ベトナム)からの輸入に最低53%の関税を賦課(注2)。その他の国からの輸入については、2017年の対米輸出実績を上限とした輸入数量割当を製品ごとに設定。
  3. 全ての国からの全ての鉄鋼製品の輸入に2017年の対米輸出実績の63%に当たる輸入数量割当を設定。

対象となる鉄鋼製品は、6桁のHSコードで720610~721650、721699~730110、730210、730240~730290、730410~730690で示されるもの。製品分野としては、a.炭素・合金フラット製品(Carbon and Alloy Flat Products)、b.炭素・合金ロング製品(Carbon and Alloy Long Products)、c.炭素・合金パイプおよびチューブ製品(Carbon and Alloy Pipe and Tube Products)、d.炭素・合金半製品(Carbon and Alloy Semi-finished Products)、e.ステンレス製品(Stainless Products)に主に属するもので、広範な製品が対象に指定されている(注3)。

商務省によると、米国国内での消費用に輸入された2017年(年率換算)の鉄鋼製品の国・地域別輸入量は、カナダが最も多く全体の16.1%を占めている(表1参照)。次いで、ブラジル、韓国、メキシコ、ロシアからの輸入が多い。

表1 2017年の国・地域別鉄鋼製品輸入量(単位:トン、%)
順位 国・地域 輸入量(注) 輸入総量に占める比率
1 カナダ 5,800,008 16.1
2 ブラジル 4,678,530 13.0
3 韓国 3,653,934 10.2
4 メキシコ 3,249,292 9.0
5 ロシア 3,123,691 8.7
6 トルコ 2,249,456 6.3
7 日本 1,781,147 5.0
8 ドイツ 1,370,669 3.8
9 台湾 1,251,767 3.5
10 インド 854,026 2.4
世界 35,927,141 100.0

(注)2017年1~10月の統計データを基に年率換算。
(出所)商務省調査結果レポート

一方、中国からの輸入は全体の2.2%にとどまっている。中国の鉄鋼輸出に対して、米国政府は既に多くのAD措置を適用し、輸入は抑制されている状況にある。しかし商務省は、中国の過剰生産により市場を奪われた鉄鋼製品が米国の市場に流入する可能性があり、国内産業の弱体化につながるとしている。

なお、商務省は中国を含めた特定国のみ最低53%の高関税を賦課する(その他の国は輸入数量割当)案を示しているが、特定国の選定基準は明らかにしていない。また、これら措置の導入期間についても提言していない。

アルミニウム:カナダからの輸入が4割強

アルミニウムについて商務省は、国内のアルミニウム生産設備の稼働率を現行の平均48%から80%に引き上げることが必要とし、以下のいずれかの是正措置を取ることを大統領に提言している。

  1. 全ての国からのアルミニウム製品の輸入に最低7.7%の関税を賦課。
  2. 特定5カ国・地域(中国、香港、ロシア、ベネズエラ、ベトナム)からの輸入に対して23.6%の関税を賦課(注2 )。その他の国からの輸入については、2017年の対米輸出実績を上限とした輸入数量割当を設定。
  3. 全ての国からの全てのアルミニウム製品の輸入に2017年の対米輸出実績の86.7%に当たる輸入数量割当を設定。

対象のアルミニウム製品は、HSコードで7601(アルミニウムの塊)、7604(アルミニウムの棒および形材)、7605(アルミニウムの線)、7606〔アルミニウムの板、シートおよびストリップ(厚さが0.2ミリを超えるものに限る)〕、7607〔アルミニウムのはく(厚さは補強材の厚さを除いて0.2ミリ以下のものに限るとし、印刷してあるかないか、または紙、板紙、プラスチックその他これらに類する補強材により裏張りしてあるかないかを問わない))、7608(アルミニウム製の管)、7609(アルミニウム製の管用継手)、7616995160(その他のアルミニウム製品:キャスティング)、7616995170(その他のアルミニウム製品:フォージング)に主に属するものになる。アルミニウムの原鉱のボーキサイトやアルミナ、アルミニウムのくず(7602)や粉末・フレーク(7603)は対象に含まれていない。

商務省によると、2017年1~10月のアルミニウム製品の国別輸入量はカナダが最も多く、全体の4割強を占めている(表2参照)。次いで、ロシア、アラブ首長国連邦(UAE)、中国からの輸入が多い。商務省はアルミニウムについても上記特定国5カ国・地域に対して高関税を課すことを提案しているが、これらの国の選定基準は鉄鋼の場合と同様に示されていない。

表2 2017年の国別アルミニウム製品輸入量(単位:トン、%)
順位 輸入量(注) 輸入総量に占める比率
1 カナダ 2,478,455 43.0
2 ロシア 625,792 10.9
3 UAE 569,405 9.9
4 中国 547,127 9.5
5 バーレーン 213,614 3.7
6 アルゼンチン 182,004 3.2
7 南アフリカ共和国 141,600 2.5
8 インド 132,014 2.3
9 カタール 103,711 1.8
10 ベネズエラ 82,078 1.4
世界 5,763,945 100.0

(注)2017年1~10月の統計データの合計値。
(出所)商務省調査結果レポート

また、商務省はこれら措置の導入期間についても提言していない。ただし、調査結果には、輸入制限措置は米国の国内産業が安定するために十分な時間をかけなくてはならず、現在、遊休状態の精錬設備を再稼働させるためには最大9カ月を要するとの記述が盛り込まれている。

例外品目が追加されれば税率や数量割当枠も変更に

商務省は、米国の安全保障にとって脅威となっていない輸入品目や、国内供給量が十分でない品目を輸入制限から除外するためのプロセスを設定することを併せて提言している。しかし、除外品目が追加される場合には、全体の輸入量を調整するため、それらの品目以外の輸入品に対する税率や数量割当の枠が変更される可能性があるとしている。

(注1)232条調査の概要については2017年4月24日記事参照。

(注2)これらの国・地域からの輸入には輸入数量割当は適用されない見込み。

(注3)製品の詳細については商務省の鉄鋼に関する調査レポート(21~22ページ)PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)を参照。

(鈴木敦)

(米国)

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