鉄鋼製品輸入による安全保障への影響調査を開始-大統領は迅速な審査を求める-

(米国)

ニューヨーク発

2017年04月24日

 商務省は4月19日、鉄鋼製品の輸入が米国の安全保障に及ぼす影響について調査を開始した。1962年通商拡大法232条に基づいた調査で、鉄鋼製品の輸入が米国の安全保障に脅威と商務省が判断すれば、大統領は当該輸入を是正する対応を取ることができる。トランプ大統領は、規定に定められた期間より迅速に審査を進めるよう求めている。

ロス商務長官が調査を要請

商務省は4月19日、1962年通商拡大法232条〔以下232条、19.U.S.C.1862(b)PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)〕に基づき、鉄鋼製品の輸入が米国の安全保障に及ぼす影響について調査を開始した。同条は、各省庁・機関の代表者や利害関係者(interested party)から要請があった場合、対象外国製品の輸入が米国の安全保障の脅威となっていないか調査することを商務省に命じている。

調査を所管する商務省産業安全保障局(BIS)外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますによると、これまで米国が実施した232条調査は26件ある。そのうち、米国の安全保障への脅威と認定された案件は8件だが、その全てが石油関連だ(石油関連の調査では、ほぼ全ての案件で安全保障の脅威が認定されている)。WTO発足(1995年)後に行われた調査は2件あるが、直近では2001年に行われた鉄鉱石と鉄の半製品に対するもので、商務省は安全保障に対する脅威はないとの判断を下している(表参照)。

232条調査の実施例(1990年~)
実施年 対象品目 商務省の決定 大統領 要請者
1992年 ギア、ギア製品 安全保障に対する脅威なし
ただし、国内産業の維持(maintenance)
に係る施策を提言
ジョージ・H・W・ブッシュ アメリカ歯車工業会(AGMA)
1993年 セラミック半導体 安全保障に対する脅威なし
ただし、国内産業に対する
アクションプランの実施を提言
ビル・クリントン 民間企業
1994年 原油、石油精製品 安全保障に対する脅威を認定
ただし、大統領に対しては輸入に係る
是正措置は行わないよう提言
(政権の他の施策による対応の方が適切と判断)し、 大統領も同条に基づいた対応はせず
ビル・クリントン 米国独立系石油協会(IPAA)などの産業団体、個人、企業
1999年 原油 安全保障に対する脅威を認定
ただし、大統領に対しては輸入に係る
是正措置は行わないよう提言
(政権の他の施策による対応の方が適切と判断)し、大統領も同条に基づいた対応はせず
ビル・クリントン 商務長官
※ジェフ・ビンガマン上院議員ら11人の上院議員の要請に基づいて実施
2001年 鉄鉱石、鉄の半製品 安全保障に対する脅威なし ジョージ・W・ブッシュ ジェームス・オバースター下院議員(ミネソタ州)
バート・スプータック下院議員(ミシガン州)

(出所)BIS資料を基に作成

今回の調査は、利害関係者ではなく、ウィルバー・ロス商務長官の要請で開始された。ロス商務長官は、連邦政府はこれまで外国からの不適切な鉄鋼製品の輸入にただ受け身で対応してきたが、今回の措置でようやく「先を見越した自主的な(proactive)」対応を取ることになる、と述べている。ロス商務長官はこれまでも、外国の不公正な貿易慣行を迅速に是正するため、政府が自主的に貿易救済措置の発動手続きを行う考えを示してきた(注1)。今回の措置は、こうした政府の取り組みの一環として捉えられる。

広範な国や鉄鋼製品が対象

BISには、国防に必要となると予測される鉄鋼製品の需要に対応するための国内生産の供給力、外国製品の輸入が及ぼす国内産業への影響(雇用の減少、技術力の喪失など)などを考慮して、決定を行うことが求められている(注2)。トランプ大統領は4月20日に発表した商務長官宛ての覚書外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますの中で、232条(d)で定められている上記の基準に加え、鉄鋼製品の世界的な過剰生産に関する削減交渉での米国の取り組みの有効性も、判断材料に含めるように指示している。こうした動きから、「トランプ政権は、BISレポートの結果を、将来の交渉における材料に使うことを目指している」(通商弁護士)との見方もある。

今回の調査についてロス商務長官は、調査が特定国を念頭に置いたものではなく、幅広い鉄鋼製品や輸入国を対象とする可能性があることを示唆した。「アンチダンピング(AD)や相殺関税(CVD)措置は、極めて限られた国からの、極めて限られた製品にしか適用できない」とした上で、今回の調査目的は広範な国や製品を対象とする「より包括的な解決策」が必要かを調査することにある、と述べている。

ADやCVDは、相手国の不公正な貿易慣行への対抗措置で、特定国の特定製品に適用対象が限定される。他方、232条は、調査対象品の輸入が米国の安全保障に対する脅威だと商務省が決定した場合には、大統領に当該輸入を是正(Adjust)する権限が与えられる。是正方法は規定されていないが、同権限には関税の引き上げも含まれる。例えば、フォード大統領(当時)は1975年1月、石油の輸入が米国にとって脅威となっているとの232条調査の商務省による決定を受けて、石油輸入に対する関税を引き上げている。

ただし、ADとCVDがWTO協定で規定されている措置である一方、232条に基づく措置は米国の国内規定に基づく措置となる。措置内容がWTO協定に違反している場合、WTO加盟国は米国に対して協定に基づいた報復措置を取ることも可能だ。

トランプ大統領は30~50日以内に判断を下すことを期待

商務省の調査実施に当たり、商務長官が調査の実施手法などに関して、国防長官と協議を行う必要がある。その上で、商務省は、必要に応じて意見募集や公聴会を開くことができる。

最終的に商務省は、調査結果と大統領への提言(大統領による対応を求めるか否かを含む)をまとめたレポートを、調査開始から270日以内に大統領に提出することが求められている。大統領は、同レポート受理後90日以内に商務省の決定に同意するかを判断し、同意するのであれば、輸入の是正措置の内容や期間などを決定する必要がある。トランプ大統領は4月20日付の覚書で、商務省に対して迅速に審査を行うよう求めている。トランプ大統領は「30日から50日、またはそれ以上に早いタイミング」での結果提出を期待している、と述べている。

(注1)米国では、アンチダンピングや補助金相殺措置の発動などの貿易救済措置に関する調査は通常、企業や産業界の要請に基づいて行われることが多い。

(注2)詳しくは、232条(d)項を参照。

(鈴木敦)

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