トランプ大統領、FTAなどの調査・見直しを指示
(米国)
ニューヨーク発
2017年05月15日
トランプ大統領は4月29日、米国が締結する貿易・投資協定の見直しを指示する大統領令に署名した。貿易・投資協定の違反や乱用に加えて、相手国が米国を不公平に扱っている事例などを180日以内に調査し、解決策を提案するよう商務長官と通商代表部(USTR)に命じている。ウィルバー・ロス商務長官は、WTOのルールや体制を強く批判しており、WTOに対する改善提案も示されるものとみられる。
投資協定や特恵関税制度も対象
この大統領令は、米国が締結する全ての自由貿易協定(FTA)や投資協定(BIT)、特恵関税制度を調査対象にしている。これらは米国の経済成長、貿易収支の改善、国内製造業の強化に資するものでなくてはならないとの認識の下、協定内容の違反(Violation)や乱用(Abuse)のほか、米国が不公平に扱われている(unfair treatment)事例を調査して、180日以内に解決策を提案するように商務長官とUSTR(注1)に指示している。
また同日、貿易と製造業に関する政策を大統領に助言する新たな部門をホワイトハウスに設立する別の大統領令にも署名した。
トランプ大統領は3月31日にも、米国の貿易赤字が大きい国を対象にその要因を調査するよう指示する大統領令に署名している(2017年4月10日記事参照)。ただ、ロス商務長官は4月28日の記者会見で、4月29日の大統領令は貿易協定などに対象を限定している点で、これまでの大統領令とは異なると説明している。
米国は現在、北米自由貿易協定(NAFTA)加盟国のカナダとメキシコのほか、韓国など20ヵ国との間でFTAを締結している(注2)。ロス商務長官によると、再交渉を行うとしているNAFTAについても今回の調査の主な対象になるという。
ロス商務長官は記者会見で、地政学上の問題に直面している韓国に対して米国側が米韓FTAの再交渉で要求していく事項について質問を受けたが、明確な回答は避けている。ロイター通信のインタビュー(4月28日)によると、トランプ大統領は米韓FTAを「恐ろしい(horrible)」協定だと批判し、NAFTAの次に再交渉を行う協定として挙げている。
商務長官はWTOを強く批判
ロス商務長官は、世界164ヵ国・地域が加盟するWTOは「最も大きな貿易協定だ」と述べ、今回の調査対象とすることを明らかにするなど、記者会見の大半をWTO批判に費やした。
具体的にはまず、WTOルールの基本原則である最恵国待遇原則(MFN)を問題としている。MFNとは、同種の製品を輸入する場合、FTA締結国を例外(注3)として、WTO加盟国全てに対して同率の関税を適用することを義務付けた原則のこと。ロス商務長官は、MFNが、米国が他国との「相互主義的な協定(reciprocal agreement)」を追求する妨げとなっていると批判した。
WTOの紛争解決制度についても、審議に時間がかかり過ぎる点に加えて、判定を行う委員の構成が米国に不利になる「構造的な問題」があると批判した。委員の人選は、WTO協定の一部である「紛争解決に係る規則および手続きに関する了解」(DSU)で定められている。小委員会では原則として、紛争当事国や紛争解決手続きに参加する第三国の国民を除いた3人の委員が個人資格で務める。常設の上級委員会には、紛争解決機関(DSB)における全加盟国のコンセンサスによって指名された委員7人がおり、そのうち3人が案件ごとに担当する(注4)。
一方、ブルームバーグの調査によると、米国が被申立国となったWTO紛争案件で米国の主張が認められなかった確率は75%と、WTO加盟国平均の84%を下回り、米国が「よく敗訴する(often defeated)」とのロス商務長官の指摘は必ずしも正しくないとの見方もある。
ロス商務長官は加えて、WTOが対応できていない分野として非関税障壁、知的財産、デジタル経済を挙げている。
(注1)5月1日の執筆時点では、通商代表に対する上院の承認は行われておらず、空席となっていた。
(注2)20ヵ国は、オーストラリア、バーレーン、カナダ、チリ、コロンビア、コスタリカ、ドミニカ共和国、エルサルバドル、グアテマラ、ホンジュラス、イスラエル、ヨルダン、韓国、メキシコ、モロッコ、ニカラグア、オマーン、パナマ、ペルー、シンガポール。
(注3)WTOでは、GATT24条に基づき、関税やその他の制限的通商規則を実質上全ての貿易において廃止することなどを条件に、MFN原則の例外としてFTAを締結することを認めている。
(注4)選出方法の詳細は経済産業省発行の「不公正貿易報告書『第17章WTOの紛争解決手続き』」を参照。
(鈴木敦)
(米国)
ビジネス短信 c3b968c76b780a53
ご質問・お問い合わせ
ビジネス短信の詳細検索等のご利用について
メンバーズ・サービスデスク(会員サービス班)
E-mail:jmember@jetro.go.jp