船会社の経営破たんによる各当事者の責任範囲と対処方法について

質問

当社貨物が積まれた船舶が運航中、その船舶の船会社が経営破たんしました。債権者の差し押さえや港への入港拒否、荷役作業の拒否などにより、船が洋上で立往生しているようです。この場合の売主・買主の責任範囲、貨物海上保険の適用、立往生している船舶からの貨物の引き取り、また運送をフォワーダーやNVOCCと行った国際複合運送業者に委託している場合のこれら国際複合運送業者の責任範囲について教えてください。

回答

国際ルール等から一般的な考え方を以下にまとめます。実際の貿易実務の現場ではケースバイケースでの対応となりますので、実際の対応については海事専門の弁護士、保険会社等、個別に関係各所にお問い合わせください。

1. 売主と買主の責任範囲
2010年版インコタームズ規則では、11種類の取引条件において売主と買主のリスクの移転時点を定めています。リスクの移転時点とは、貨物の損害に対する責任が売主から買主に切り替わる時点をいいます。在来船用のFOB(本船渡し)、CFR(運賃込み)、CIF(運賃保険料込み)はいずれも本船の船上に置いた(On Board)時点でリスクが売主から買主に移転します。コンテナ船、航空機等で用いるべきFCA(運送人渡し)、CPT(輸送費込み)、CIP(輸送品保険料込み)は、運送人に貨物を引き渡した時、リスクが売主から買主に移転します。これらのうち、CFR、CIF、CPT、CIPの4つの規則については、いずれも売主が指定仕向港(地)へ物品を運ぶために必要な運送契約を締結するものの、物品が仕向地に到着した時ではなく売主が運送人に引き渡した時、売主は引き渡しの義務を果たします。つまりこれらCFR、CIF、CPT、CIPの4つの規則については、リスクの移転と費用負担者の変更が異なる場所で起こることに注意が必要です。

2. 貨物海上保険は適用されるか
外航貨物海上保険において現在主流となっている2009年改定協会約款(Institute Cargo Clauses: ICC)では、ICC(A)<1963年協会約款の全危険担保(All Risks)に相当>を付保した場合は、船会社の倒産により保険証券記載の仕向地以外の場所で運送契約が打ち切られ、その結果として本来の仕向地までの継続費用が発生した場合には保険金の支払いの対象となります(ICC(A)第12条)。ただし、当該倒産情報を被保険者が知っていたか、または通常業務において知っているべきであった場合は対象外となります(同第4条第6項)。また、輸送の遅延についても保険の免責事項となっており、今回の船会社の倒産で輸送の遅延が生じ、当該遅延によって貨物に損害があったとしても保険金の対象とはなりません(同第4条第5項)。実際に保険金が支払われるかどうかは保険契約の内容や状況に応じ個別の対応となるため、貨物海上保険を契約している保険会社に個別にお問い合わせください。

3. 洋上で立往生している船舶からの貨物の引き取り
その船舶に積まれている個々の貨物は倒産した当該船会社の資産ではありません。一方、有価証券である船荷証券(Bill of Lading: B/L)の善意の所持人(bona fide folder)は、貨物の処分権者であり、当然、船荷証券を持って貨物の引き取りを主張する権利があります。しかし実際には、債権者によって差し押さえられた船舶は債権者の保全処分による管理下に、法定管理下で保全処分および包括的禁止命令が承認された資産については管財人などの管理下にあるため、実際に差し押さえられた船舶から貨物だけを引き取るということには困難が予想されます。従って、このような法律行為に関わることについては、海事分野に詳しい弁護士にご相談ください。

4. 国際複合運送におけるフォワーダー、NVOCCの運送責任
現状の運送契約では、直接船会社とでなく、利用運送事業者(Freight Forwarder)や非船舶運航業者(Non-Vessel Operating Common Carrier: NVOCC)との契約である場合も多くあります。ただし、荷主と契約した運送人が、全運送区間に渡り一定の責任を負うユニフォーム・ライアビリティー・システム(Uniform Liability System)が適用される国連国際物品複合運送条約は未発効です。現状の国際複合運送では、運送人の責任は、主として貨物の損害の発生した運送区間ごとに適用されるネットワーク・ライアビリティー・システム(Network Liability System)が採用されています。このため、契約しているフォワーダー、NVOCCの責任は限定的と考えられますが、詳細は、フォワーダー、NVOCCとの運送契約(House B/Lの裏面約款等)をご確認頂き、契約されたフォワーダー、NVOCC等に直接ご確認ください。

参考資料・情報
「Incoterms(R)2010英和対訳版」国際商業会議所 日本委員会発行
「外航貨物海上保険」2009年 ロンドン協会貨物約款対訳((財)損害保険事業総合研究所発行)

ジェトロ:
貿易投資相談Q&A「インコタームズ2010」
貿易投資相談Q&A「貨物海上保険で填補できない「危険」の種類とその対処:日本」

調査時点:2016/09

記事番号:J-160912

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