お知らせ・記者発表
ジェトロによる「進出日系企業実態調査」の結果 ―アジア・オセアニア編―
2020年12月23日
新型コロナで景況感悪化、通商環境の変化による影響が広範囲に
本調査結果の主要ポイント
- 1.新型コロナで景況感は過去最低も、中国の悪化度合いは緩やか:
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- アジア・オセアニアのすべての国・地域の景況感がマイナスとなったのは、調査開始以来はじめて。景況感を表すDI値(注)は全体でマイナス40.7ポイントと、過去最低水準を更新。米中対立など通商環境の変化によるマイナスの影響に、新型コロナによる国内外での市場喪失の影響が追い打ちをかけた。
- 中国の日系企業の景況感はマイナス23.4ポイント。悪化はしたものの、前年からの落ち込みは19.6ポイントと、悪化度合いは他国・地域と比べ緩やか。また、黒字企業の割合もすべての国・地域で落ち込んだものの、中国は最も減少幅が少なく、6割強が黒字を維持。
(注)Diffusion Indexの略で、営業利益が「改善」する企業の割合(%)から「悪化」する割合を差し引いた数値。
- 2.新型コロナからの正常化でも中国が先行:
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新型コロナから正常化する時期を2021年中と見込む企業が8割に上るなか、中国では4割強の企業が「年内」に、7割が「2021年前半」までに正常化を見込む。
- 3.通商環境の変化:香港でマイナスの影響顕著、ベトナム、インド、バングラデシュはプラスも:
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- 通商環境の変化による業績へのマイナスの影響は、北東アジアを中心にやや悪化しつつ継続。とりわけ、香港は米中対立などの影響を受けた悪化が目立ち、46.3%の企業が「マイナスの影響」を受けている。加えて、豪州でもマイナスの影響が3割強と、前年比倍近く増加。中国・豪州間の通商関係の悪化が背景にあるとみられる。
- 一方、ベトナム、インド、バングラデシュなどでは通商環境の変化がプラスに作用も。ベトナム、バングラデシュでは、米中貿易摩擦を受けた両国への生産シフトがプラスに働くとする回答が多い。インドでは、そうした生産シフトに加え、中印関係悪化を背景に、中国製品のインドへの流入が減少することによる日本製品購入増などのプラスの影響があるとする回答が目立つ。
本調査について
実施方法 | アンケート調査(オンライン配布・回収) |
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実施時期 | 2020年(令和2年) 8月24日~9月25日 |
アンケート送付先 | 北東アジア5カ国・地域、東南アジア9カ国、南西アジア4カ国、オセアニア2カ国の20カ国・地域に進出する日系企業(1万4,399社) |
有効回答数 | 5,976社、有効回答率41.5% |
本調査の結果概要
1-1.新型コロナで景況感は過去最低も、中国の悪化度合いは緩やか (スライド1-(6))
- 景況感を表すDI値(注)は、△40.7で過去最低を更新。すべての国・地域で景況感がマイナスとなったのは調査開始以来はじめて。2019年から顕在化した米中対立など通商環境の変化によるマイナスの影響に、新型コロナウイルス(以下、新型コロナ)による国内外での市場喪失の影響が追い打ちをかけた。
- 中国の日系企業の景況感も△23.4ポイントと悪化はしたものの、前年からの落ち込みは19.6ポイントと、悪化度合いは他国・地域と比べ緩やか。新型コロナ感染の影響は受けたが、早い段階で感染が抑制され、経済活動が再開したことが背景にある。また、黒字企業の割合もすべての国・地域で落ち込んだものの、中国は前年比5ポイント減の63.5%が黒字を維持。この減少幅は調査対象国・地域の中で最も少なかった。
- 一方、依然として感染が拡大するインドネシアが、地域内では△65.9ポイントで最も深刻。これに、タイ(△57.4ポイント)、フィリピン(△51.2ポイント)、インド(△50.3ポイント)が△50ポイントを超えて続いた。インドネシア、タイ、インドでは9割前後の企業が「現地市場での売り上げ減少」、フィリピンでは6割の企業が「輸出低迷による売り上げ減少」を悪化の理由として挙げる。
(注) Diffusion Indexの略で、営業利益が「改善」する企業の割合(%)から「悪化」する割合を差し引いた数値
1-2. 今後1~2年の事業拡大意欲、過去最低を更新(スライド2-(1))
- 今後1~2年の事業展開の方向性で「拡大」と回答した企業の割合は、2019年調査から多くの国・地域で低下し始めていたが、2020年調査ではすべての国・地域で落ち込み、過去最低を更新した。米中対立など通商環境の変化による影響に加え、新型コロナによる需要喪失が事業拡大意欲にもマイナスの影響を与えていることが読み取れる。
- 一方、このような厳しい状況の中でも、過半の企業が事業拡大意欲を保ったのは、インド(50.9%)、パキスタン(53.5%)であった。インドではそのうち84.2%の企業が「現地市場での売上増加」を、パキスタンでは73.9%の企業が「成長性、潜在力の高さ」を拡大の理由とした。
2-1.新型コロナからの正常化、中国で先行、7割が2021年前半見込み(スライド3-(1))
ビジネスが正常化する時期として、8割の企業が2021年中を見込むのに対して、中国では67.2%が2021年前半までとしている。このうち、43.9%の企業が2020年内の正常化を見込んでおり、調査対象国・地域の中でも際立った回復ぶりを示している。
2-2.新型コロナを受け、企業のデジタルシフトが加速(スライド3-(4))
- 新型コロナへの対応として、52.2%の企業がビジネスモデルの見直しを実施、または予定。
- 見直しの具体的な内容としては、在宅勤務やテレワークの活用拡大(53.8%)、バーチャル展示会・オンライン商談会の活用(24.6%)、デジタルマーケティング・AI利用(23.8%)など、企業のデジタルシフトが加速する傾向が出ている。
3-1.通商環境の変化、マイナスの影響が継続、香港・豪州の悪化が顕著(スライド7-(1))
- 2019年に顕在化した米中対立などの通商環境の変化による業績へのマイナスの影響は、23.1%と、前年の19.7%から3.4ポイント悪化。特に、香港では前年比9.0ポイント悪化し、過半に迫る46.3%の企業がマイナスの影響があるとした。米中貿易摩擦の影響で中国の顧客企業による米国向けの輸出が減少する、中国からASEANなど他国・地域に生産が移管されることによる販売減少などの回答が目立った。
- 加えて、オーストラリアでもマイナスの影響が31.7%と、前年の17.5%から倍近い14.2ポイント増加した。この背景には、主に中国・オーストラリア間の通商関係の悪化があるとみられる。回答結果からは中国側の石炭や牛肉などの輸入制限措置の影響が読み取れる。
3-2.ベトナムなどでは通商環境の変化がプラスに作用、前年比増(スライド7-(1))
- ベトナム、バングラデシュ、インドでは、通商環境の変化による業績へのプラスの影響が10%を超え、前年と比べても顕著に増加した。ベトナムは前年から8.2ポイント増の15.3%、バングラデシュは同2.9ポイント増の13.8%、インドは同6.6ポイント増の10.5%であった。
- ベトナム、バングラデシュの回答結果からは、米中貿易摩擦による両国への生産シフトがプラスに働くとする回答が多い。インドでは、中国から同国への生産シフトによるプラスの影響に加え、中印関係悪化を背景に、中国製品のインドへの流入が減少することによる日本製品購入増などのプラスの影響があるとする回答が目立つ。なお、ベトナムでは2020年8月に発効したEU・ベトナム自由貿易協定(EVFTA)のプラスの影響を指摘する声もあった。
調査結果からみえるその他の動き
- 経営上の問題点、取引先からの発注量の減少、市場低迷が急浮上(スライド4-(1))
- 75%の企業がFTA・EPAを活用。活用にあたる知識不足が課題(スライド6-(6))
- 現地スタートアップと約500社が連携(予定含む)、約1,300社が連携に関心(スライド8-(2))
- 電子商取引(EC)での販売、旅行や小売りでは7割以上(予定含む)(スライド8-(6))
- デジタル人材に対するニーズが増加(スライド8-(12))
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ジェトロ・アジア大洋州課 (担当:山城、三木)
Tel:03-3582-5179ジェトロ中国北アジア課 (友田、向野)
Tel:03-3582-5181