英国のEU離脱に関する英国・EU進出日系企業への影響について

2020年11月10日

在英日系製造企業の7割が移行期間終了後のEU向け輸出で懸念

ジェトロは2020年9月、欧州に進出している日系企業に対し、英国のEU離脱の影響に関するアンケート調査を実施しました。その結果の一部を速報として次のとおり発表します。

調査方法・実施時期 アンケート調査・2020年9月3日~24日
アンケート送付先 欧州進出日系企業1,419社(回答企業数949社、有効回答率66.9%)
質問項目
  1. 英国のEU離脱の事業への影響
  2. 移行期間終了後の貿易上の懸念
  3. EU英国FTAなき移行期間終了に備えた対応策
  4. EU英国FTA、日英EPAが与える影響

速報調査結果のポイント

  • 英国のEU離脱に伴う移行期間中の「マイナスの影響」を指摘した在英日系企業、在EU日系企業の割合はそれぞれ1割台、在英日系製造業でも25%にとどまった。「マイナスの影響」の理由として「在庫積み増し費用」や「顧客の事業縮小、撤退」などが在英日系企業、在EU日系企業双方から指摘された。
  • 移行期間終了後の影響について、在英日系企業の4割が「マイナスの影響」を回答。在英、在EU双方の日系企業から「通関・物流の混乱」「関税コスト」「通関手続きの発生」が理由に挙がった。EU英国間の通関手続きは、FTA締結に関係なく、移行期間終了後に必ず発生することが背景にある。
  • 移行期間終了後の貿易上の懸念として、回答を得た在英日系製造業の7割近くが「英国からEUへの輸出」を挙げ、在英日系製造業にとってのEU市場の重要性が確認された。
  • EU英国間でFTAを含む将来協定に関する合意がないまま移行期間が終了した場合の対応策について、「策定完了」「策定中」「策定予定」を選択した在英日系製造業の82.1%が「在庫積み増し」を挙げた。移行期間の終了時期が年末でほぼ確定していることが前年調査時と異なる。
  • 「日本から英国への輸入」で日英EPAを「利用予定」もしくは「利用を検討中」の在英日系企業の割合は73.7%となり、日英EPAのシームレスな発効への期待がうかがえる。

結果概要

移行期間中の事業への影響

  • 英国のEU離脱に伴う移行期間中の事業への影響につき、「マイナスの影響」と回答した企業の割合は在英日系企業で18.2%、在EU日系企業で15.1%だった。一方、「影響はない」の回答割合はそれぞれ64.8%、64.6%となり、EU加盟時と同様な交易条件が維持される移行期間中は企業活動への影響は比較的小さいことが示された。
  • 業種別にみると、「マイナスの影響」の回答割合は在英日系製造業が25.0%と、非製造業の14.1%を10.9ポイント上回った。具体的な「マイナスの影響」としては、物流・税関の混乱等に備えた「在庫積み増しにかかる費用」「顧客の事業縮小、撤退」が在英、在EU日系企業双方から指摘された。

移行期間終了後の事業への影響

  • 英国のEU離脱に伴う移行期間終了後の事業への影響で、「マイナスの影響」と回答した割合は、在英日系企業で40.5%、在EU日系企業で19.6%となった。具体的な「マイナスの影響」としては、在英、在EU日系企業双方から「通関・物流の混乱」「関税コスト」「通関手続きの発生」が共通に指摘されたほか、在英日系企業からは、「欧州人材確保への懸念」などの回答がみられた。
  • 移行期間終了後の事業への影響は、「わからない」と回答する企業割合が36.7%、33.8%と3割以上を占め、先行きを見通すことができない企業が一定程度いることが確認された。
  • 業種別にみると、「マイナスの影響」は在英日系製造業で50.8%と最も高い結果となり、在EU日系製造業を32.8ポイント上回った。

移行期間終了後の貿易上の懸念

  • 移行期間終了後の貿易上の懸念として、回答を得た在英日系企業の48.7%、在EU日系企業の41.9%が「EUから英国への輸入(EUから英国への輸出)」を挙げ、在英日系製造業では51.7%に達した。また、在英日系企業の46.8%が「英国からEUへの輸出」を回答したが、在EU日系企業では20.9%に留まった。特に、在英日系製造業では、この割合が66.7%と7割近くに達し、在英日系製造業にとってのEU市場の重要性を裏付けた。
  • 具体的には、英国からEU向け輸出に懸念を示した在英日系企業の86.1%が「通関手続きの発生」を挙げた。また、輸出入の双方で在英日系企業の約8割が「物流の遅れ」を挙げた。他方、輸出入の双方で在EU日系企業の8割弱が「通関手続きの発生」を、同7割前後が「物流の遅れ」を挙げた。
  • 業種別にみると、在英日系製造業で回答割合が大きい項目が多く、90.3%がEUからの輸入時の「物流の遅れ」を、87.5%がEUへの輸出時の「物流の遅れ」を、75.0%が輸出時の「EU英国FTAの発効の遅れ・交渉不調による関税発生」を、移行期間終了後の貿易上の懸念に挙げた。
  • 在英日系企業の14.9%が懸念に挙げた「日本から英国への輸入」について、そのうちの69.6%が「日EU・EPAの適用対象外となること」、65.2%が「日英EPAの発効の遅れによる関税率の上昇」を理由として回答、この割合は在英日系製造業ではそれぞれ80.0%、70.0%に達した。

EU英国FTAなき移行期間終了に備えた対応策の策定状況

  • 英国・EU間でFTAを含む将来協定に関する合意がないまま移行期間が終了した場合の対応策について、「策定完了」「策定中」「策定予定」まで含めた回答割合は在英日系企業で43.2%、在EU企業で31.6%となった。業種別では、特に在英日系製造業で52.8%と5割を超えた。
  • 具体的な上位3つの対応策は「在庫積み増し」「物流ルートの変更」「製品・サービス価格への転嫁」。中でも、「策定完了」「策定中」「策定予定」を回答した在英日系製造業の82.1%が、「在庫積み増し」を対応策に挙げた。

EU英国FTA、日英EPAが与える影響

  • 日英EPAについて、在英日系企業の34.0%がメリットが大きいと回答。他方、日EU・EPAのメリットが大きいと回答した在英企業は18.1%に留まった。英国・日本間で輸出入を行っている在英日系企業のうち、「日本から英国への輸入」で日英EPAを「利用予定」もしくは「利用を検討中」の企業割合が73.7%となり、日英EPAのシームレスな発効への期待がうかがえる。
  • EU英国FTAについて、在英企業の38.1%、在EU企業の20.8%がメリットが大きいと回答。EU英国間で輸出入を行っている在英・在EU日系企業のEU英国FTAの利用の検討状況について、「英国からEUへの輸出」では在英日系企業の75.0%、在EU日系企業の80.3%が「利用予定」もしくは「利用を検討中」と回答した。「EUから英国への輸入」では在英日系企業の75.0%、在EU日系企業の68.8%が「利用予定」もしくは「利用を検討中」と回答した。
  • 環太平洋パートナーシップに関する包括的および先進的な協定(CPTPP)に英国が加入する場合、CPTPP(日本を含む)参加国から英国に輸入している在英日系企業の59.7%が「利用予定」もしくは「利用を検討中」と回答した。

英国のEU離脱に対するジェトロとしての対応について

英国のEU離脱について、ジェトロは特に中小企業等に対して、積極的かつきめ細かいサポートを行うため、経済産業省と共同で立ち上げた「ブレグジット対応サービスデスク」を含め、日本企業の皆様に対して、次のような各種対応を実施しています。

  1. 「ブレグジット対応サービスデスク」での対応

    経済産業省と共同でブレグジット対応サービスデスクを2019年10月に立ち上げ、日本各地に所在する英国に進出中の中小企業等に対し個別にプッシュ型でアプローチを行い、個別相談対応を実施。同デスクにはジェトロと経済産業省で職員・専門家を担当職員として配置しています。

  2. 国内外での相談対応

    東京本部に専用の「英国のEU離脱(ブレグジット)相談窓口」を設置(Tel:03-3582-5651)し、欧州を専門とする専門家を配置し、日本企業からの相談に対応。また全国50ヵ所(大阪本部含む)の国内事務所にも相談窓口を設置しています。
    海外では、ロンドン事務所で、法務・労務・税務等の専門家の支援も得つつ、英国に拠点を有する日系企業からの個別相談に対応。また、その他の在欧州事務所でも、日系企業からのブレグジット関連相談に、各事務所職員等が対応に当たっています。

  3. セミナーや特設サイト等を通じた情報発信

    日本国内、英国および欧州諸都市で、ブレグジットの最新情報や企業のブレグジット対応等をテーマとしたセミナー(オンライン含む)を開催。また2016年6月に開設した特設ウェブサイト 「特集英国のEU離脱(ブレグジット)」にも、迅速に最新情報を収集のうえ掲載し、日本企業に積極的な情報発信を行っています。

ジェトロ欧州ロシアCIS課 (担当:田中、福井、山田)
Tel:03-3582-5569 E-mail:ORD@jetro.go.jp