「ジェトロ世界貿易投資報告」2020年版 ―不確実性増す世界経済とデジタル化の行方―

2020年07月30日

2020年版の「ジェトロ世界貿易投資報告」をまとめましたので、総論編概要を次のとおり発表します。

  1. 金額・数量ともに減少に転じた2019年の世界貿易
  2. 2020年第1四半期の貿易は新型コロナで急減
  3. 不確実性増す世界で新たなビジネス様式を模索する日本企業

1.金額・数量ともに減少に転じた2019年の世界貿易

  • 2019年の世界貿易(財貿易、名目輸出ベース)は、前年比2.9パーセント減の18兆5,047億ドル(ジェトロ推計値)となった。貿易紛争による不確実性増大や世界の経済成長鈍化による需要減に加え、燃料価格下落が続いたことなどが背景にある。貿易数量(輸出ベース)も前年比0.1パーセント減となり、世界貿易は金額・数量ともに前年から減少に転じた。双方の伸びがマイナスとなったのは2009年以来10年ぶり。
  • 2019年は欧州や東アジアを中心に多くの国・地域で貿易額が前年から減少に転じた。資源輸出国の輸出額も、資源価格下落の影響を受け前年比減少した。2019年の世界貿易を商品別にみると、多くの商品で伸び率がマイナスとなった。資源関連商品や一般機械、化学品、輸送機器、電気機器などの減速が貿易を押し下げた。
  • 米中貿易摩擦は、世界貿易の流れに変化を生じさせた。米国の対中追加関税措置により、コンピューターの部分品の世界貿易では、中国の対米輸出の世界シェアが縮小、代わって韓国、台湾、ASEANが米国向け輸出を拡大させた。対米輸出が縮小した中国は、韓国などアジア向けを拡大した。

2.2020年第1四半期の貿易は新型コロナで急減

  • 2020年第1四半期の世界の輸出額は前年同期比5.8パーセント減となった。EU25(△1.7パーセントポイント)、中国(△1.6パーセントポイント)、資源輸出国(△1.0パーセントポイント)の輸出減少に対する寄与度が大きかった。2020年第1四半期の伸び率を国別にみると、中国の輸出が前年同期比13.4パーセント減と大幅に減少した。
  • 2020年第1四半期までの商品別貿易データが入手可能な32カ国・地域の貿易(輸出ベース)は、輸送機器や一般機械が大きく減少した一方、医薬品および医療用品の輸出はプラスの伸びを維持した。同四半期の世界貿易を概観すると、中国とEU諸国の貿易の落ち込みが他に比べ大きい様子が分かる。
  • 新型コロナを受け、貿易制限的な措置が世界中で多数導入された。特に3月以降は、衛生用品の輸出制限の動きが世界中で広まった。一方で、関税の引き下げや輸入手続きの簡素化といった緩和措置も数多く、5月時点の累計件数としては97件と、貿易制限措置(82件)を上回った(ジェトロ調べ)。

3.不確実性増す世界で新たなビジネス様式を模索する日本企業

  • ジェトロが世界各地の日本商工会などと連携して実施した進出日系企業へのアンケート調査結果によると、海外進出日系企業の8割程度が2020年の売上の前年比減少を見込む。新型コロナによるビジネスの稼働率低下の最大の要因は国内外需要の減少であった。次いで国内外サプライチェーン分断による供給停止などが続く。
  • 新型コロナを受け、事業戦略やビジネスモデルを見直す進出日系企業は6割程度。見直し内容としては調達先や生産地の見直しがそれぞれ2割、1割程度となったほか、販売戦略の変更が約7割にのぼる。
  • 新型コロナは、世界中の人々の生活基盤や企業活動を急速にデジタル化させる契機にもなった。オンライン診療などの医療をはじめ、教育、飲食などの分野でデジタル化が進展した。日本でも、授業のオンラインサービス、イベントや飲食店の営業自粛で生じる食品ロスを削減するシステムの開発など、さまざまな取り組みが始動している。
  • 2020年の世界の経済成長率は、世界金融危機下の2009年を大きく下回る見通し。2019年にマイナスの伸びで推移した日本の輸出は、足下で減少幅が広がっている。同年に過去最高を更新した日本の対外直接投資も、2020年に入り減少に転じた。世界の不確実性がかつてない水準に高まるなか、米中摩擦に続き新型コロナによる「需要ショック」「市場喪失」が日本企業に新たなビジネス様式への移行を迫っている。

ジェトロ海外調査部 国際経済課
担当:米山(国際経済課長)、古川、朝倉、吾郷
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