有限会社𠮷正織物工場
着物用の伝統的な浜ちりめんを海外高級ブランド向けに展開し、サステナブル素材も新規に開発
京友禅や加賀友禅を染色する最高級の着物用シルク生地「浜ちりめん」の製造・販売を行う。約270年の歴史がある高い伝統技術と時代に合った新製法を生み出しながら、原料仕入れから製品検査までの全38工程を一貫生産。
滋賀県長浜市 ウェブサイト
- 展開国・地域:
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・2020年度 イタリア、フランス
・2021年度 イタリア、フランス、米国 - 事業内容:
- 浜ちりめん・浜つむぎ製造販売
着物需要の落ち込みを受け、海外展開に挑戦
当社が製造・販売する浜ちりめん生地は、伊吹山の豊かな伏流水、世界屈指の軟水の琵琶湖の深層水を使い、独自の製法・水よりで表面に現れる美しいシボ(細かい凸凹)が特徴です。これまで300年近く着物向けに製造・販売してきましたが、近年の着物需要の落ち込みもあり、海外の高級ブランド向け展開を視野に輸出に挑戦しました。海外展開について最初に相談した長浜商工会議所からジェトロを紹介いただき、技術開発では滋賀県の東北部工業技術センター、海外展開の活動資金面では滋賀県、長浜市、長浜商工会議所、滋賀県中小企業団体中央会からも支援をいただいています。新輸出大国コンソーシアムのハンズオン支援に採択された2019年には、欧米の著名高級ファッションブランド各社との商談が実現し、ミラノやパリのバイヤーを15社ほど個別に訪問しました。2020年2月のパリ・コレクションでは、当社の「彩柳」ちりめんが欧州著名ブランドの新作に採用されました。
生地の幅やサステナビリティの壁を乗り越える
海外展開に向けて、反物より幅の広い生地を生産できる織機も新規に導入しました。ハンズオン支援の専門家には提案キットの作成指導や商品のPRポイントの指導、有力高級ブランドのバイヤーの紹介などでお力添えいただきました。2019年の欧州バイヤーとの商談にもご同行いただいて商談後のフォローまできめ細かくサポートいただき、成約に至りました。欧米にはない強撚糸を使ってできる表面のシボは、どの高級ブランドでも使ったことがなく、新しいデザイン・作品を訴求できる生地だと評価されています。海外に販路を拡大したことで知名度やブランド力も向上し、それがブーメラン効果となって国内の和装以外での展開にも広がりつつあります。その一方で、欧州バイヤーからサステナブル素材の有無についての問い合わせが増えてきたことを踏まえ、ジェトロからの助言もあり、サステナブルなシルク「長浜エコフレンドリーシルク(NecoS)」の開発に着手しました。
足を踏み出すことで見える課題を一つひとつ解決する
サステナブル対応は、「2025年までに目に見える形で対応しないと今後、取引はできなくなるかも」との海外バイヤーの声も、大きな警告に感じました。そこですべての工程から化学物質を排除した新製法を開発し、2020年秋に「NecoS」のオンライン発表会を開催。また長年の研究の末にウォッシャブルシルクの加工技術も開発し、サステナブル対応第2弾としてオリジナルファッションブランド「2M,38S」を2021年秋に立ち上げました。コロナ禍では欧米高級ブランドのリアルのコレクション発表会が中止となり、生地の需要減も見られましたが、引き続き高級ブランドのデザイナーの拠点地をターゲットに事業を推進します。海外展開にまず一歩足を踏み出すことで、新たに見える世界があり、また課題も生まれますが、それを一つひとつ解決して進めていくことが肝要です。「焦らず、慌てず、諦めず、継続は力なり」。ジェトロに相談しながら、まずは挑戦してみることが大事です。
専門家からのポイント
同社が直面した問題は他の伝統産業に携わる多くの会社が持つ問題だと思います。すなわち、ライフスタイルの変化、価値観の多様化、好みの多様化により日本国内の市場での完結が難しくなったときの打開策です。業界全体が直面した危機に対し𠮷田社長は発想を転換され、海外の市場を求め、現在のグローバルなニーズに合わせた商品、エコフレンドリーに着眼されて新たな商品を開発された点が海外市場開拓成功の要因だと考えます。過去の成功体験にとらわれない発想の転換、世界規模での消費者ニーズに応えた商品開発が世界に出ていくときに必要だと考えます。
ご利用いただいたジェトロのサービス
- 新輸出大国コンソーシアム
日本企業の海外展開を支援する全国のあらゆる支援機関が結集し、海外展開にご関心をお持ちの中堅・中小企業の皆様へワンストップの支援サービスを提供します。
有限会社𠮷正織物工場
滋賀県長浜市
https://yoshimasa-orimono.jp/
代表者:𠮷田 和生
設立年:1927年
従業員:13名
事業内容:浜ちりめん・浜つむぎ製造販売
2021年12月