ウクライナ侵攻から1年、世界貿易は当初予測を上回る、WTO報告書
(世界、ウクライナ、ロシア)
国際経済課
2023年03月02日
WTOは2月23日、「ウクライナ戦争の1年:世界貿易・開発への影響評価」と題する報告書を発表した。同報告書によると、ロシアのウクライナ侵攻当初に予測された悲観的なシナリオを翻して、世界の貿易は高いレジリエンス〔強靭(きょうじん)性〕を発揮した。チーフエコノミストのラルフ・オサ氏は「世界貿易は、ウクライナ戦争に直面しながらも、よく持ちこたえた。戦争開始時に予測された最悪の事態は起きていない」と指摘、多国間貿易システムの開放性や各国政府の協力によって、価格上昇や供給不足が抑制された点を評価した。
WTOは2021年10月、2022年の物品貿易の前年比伸び率を4.7%と予測していたが、ロシアによるウクライナ侵攻後の2022年4月に、2.4~3.0%(最も悲観的なシナリオでは0.5%)へ引き下げた。しかし、実際の貿易が予測を上回る勢いで拡大したことから、2022年10月には3.5%へ再び上方修正を行った。
一方、ウクライナによる2022年の輸出額は前年比30%減少した。ハンガリーやポーランドといった近隣諸国で農産品を中心にウクライナからの輸入が増加したという例外を除くと、相手国・地域を問わず、軒並み減少した。他方、ロシアの輸出は、燃料や肥料、穀物を中心とした価格の上昇を受け、金額ベースで15.6%増加した。ただし、数量ベースでは微減したとみられる。また、自動車や医薬品、航空機など、各国・地域の制裁が厳しく科された工業製品では大幅減となった。
ロシアのウクライナ侵攻後、特に懸念されたのは、小麦やトウモロコシ、ヒマワリ製品、肥料、燃料、パラジウムの深刻な品不足だったが、これらはおおむね回避された。戦争の影響を受けて価格が上昇した品目もあるが、物価上昇率はパラジウムで4.4%、トウモロコシで24.2%など、当初予測されたほどの高騰ではなかった。ウクライナからの輸入に高く依存してきた国々でも、それぞれ代替供給元を見つけることができた。例えば、エジプトはウクライナから輸入していた小麦をEUからの供給で補った。また、代替品に切り替えて輸入する事例もみられ、トルコは小麦の輸入減少に際し、コメの輸入を急増することで対応した。
報告書は、WTO加盟国による輸出規制の発動が比較的抑制されていることが物価上昇の抑制に重要な役割を果たしたと分析している。WTOの監視報告書(モニタリングレポート)によると、2021年10月半ば~2022年10月半ばの間に、WTO加盟国が導入した通常の輸入促進措置(注)の推定貿易額(1兆384億ドル)は輸入制限措置の貿易額(1,635億ドル)を大きく上回った。
(注)新型コロナウイルスに関連しない輸入促進措置のこと。
(森詩織)
(世界、ウクライナ、ロシア)
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