欧州委、人権・環境デューディリジェンスの義務化指令案を発表
(EU)
ブリュッセル発
2022年02月28日
欧州委員会は2月23日、特定の企業に対して企業活動における人権や環境への悪影響を予防・是正する義務を課す企業持続可能性デューディリジェンス指令案を発表(プレスリリース)した。
同指令案によって義務化の対象となるのは、EU域内で設立された企業のうち、(a)全世界での年間純売上高が1億5,000万ユーロ超、かつ、年間平均従業員数が500人超の企業、(b)全世界での年間純売上高が4,000万ユーロ超、かつ、人権・環境の観点からハイリスクと指定された繊維、農林水産、鉱業などの分野の売上高が年間純売上高の50%以上を占め、さらに年間平均従業員数が250人超の企業だ。EU域外で設立された企業の場合は従業員数の要件はなく、域内での売上高が(a)または(b)の年間純売上高の基準を満たす企業に限定される。欧州委によると、EU企業約1万3,000社(全EU企業の1%程度)と域外企業約4,000社が対象となる見込み。
デューディリジェンス(DD)の射程には、自社と子会社の企業活動に加えて、バリューチェーンにおける結び付きの強さや期間の観点から、継続的なビジネス関係を持つ取引先による企業活動が含まれる。よって、直接的な義務化の対象外でも、対象企業とビジネス関係がある場合には、対象企業から対応を求められる可能性がある。
DDの内容については、対象企業は、(1)企業方針にDD方針を取り込み、(2)実際の、あるいは潜在的な人権・環境への悪影響を特定し、(3)潜在的な悪影響に関しては、予防行動計画を策定・実施し、(4)実際に悪影響が発生した場合には、被害者への金銭的補償の提供を含めた是正措置計画を策定・実施し、(2)(3)ともに取引先に対し、各計画への順守に関する契約上の保証を求めるとともに、順守状況を監督し、順守されない場合には取引先との契約関係の停止などの措置を講じること。また、(5)被害者や市民団体に開かれた苦情申立制度を設置し、(6)自社、子会社、取引先の企業活動と上記の対応策の評価を少なくとも12カ月ごとに実施し、(7)DDの内容を公表することが求められる。DDの対象となる人権・環境上の項目は付属書で規定している。
対象企業の取締役に対しては、DDを実施・監督する義務を課し、DDを遂行するに当たっては人権や気候変動、環境への影響を考慮することを求める。また、(a)の対象企業には、気候変動に対するパリ協定と持続可能な経済への移行に整合的なビジネスモデルと企業戦略を策定する義務を課し、その順守と取締役の変動報酬を連動させることも求める。
対象企業がこれらの義務に違反した場合、加盟国が売上高に応じた罰金を科す。また、対象企業は取引先による場合を含め、(2)と(3)の義務に違反し、損害を発生させた場合には、損害賠償責任を負うことになる。ただし、取引先による違反の場合には、契約上の保証があれば、損害賠償責任は免責される。
同指令案は今後、EU理事会(閣僚理事会)と欧州議会で審議され、採択された場合は加盟国による2年間の国内法制化の期間を経て適用が開始される。ただし、(b)の対象企業に対しては、適用開始後さらに2年間の猶予期間を経てからの適用となる。
(吉沼啓介)
(EU)
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