医療・介護拡充に向けた改革案を発表、2022年4月から国民保険料を引き上げ
(英国)
ロンドン発
2021年09月13日
英国のボリス・ジョンソン首相は9月7日、国営医療サービス(NHS)や介護制度などの社会保障を充実させるための改革案を発表した。
同案では、2022年4月から国民保険料を1.25%引き上げる。労働者と雇用主がそれぞれ支払う国民保険料が対象となることから、会社員の場合、給与に対する税率の引き上げ分は実質2.5%となる。2023年4月からは1.25%分を国民保険料から分離させ、同率の別の税が適用され、国民保険料の税率は引き上げ前の水準に戻る予定だ。そのほか、株式の配当所得に対しても2022年4月から1.25%の税率が適用される。
ジョンソン首相の同日付の下院向け声明によれば、今回の改革では、増税により今後3年間で約360億ポンド(約5兆4,720億円、1ポンド=約152円)の財源確保を見込んでおり、イングランドにおいて新型コロナウイルスの影響により未着手となっている、他の疾病の患者の対応に向けたNHSの設備拡充などに投資する。そのほか、スコットランド、ウェールズ、北アイルランドについては、2024年度(2024年4月~2025年3月)に、同財源からそれぞれ11億ポンド、7億ポンド、4億ポンドの資金を介護・医療サービスに交付する方針。また、介護制度については、2023年10月以降、国民1人が生涯で支払う介護費用に8万6,000ポンドの上限を設けるほか、介護費用の支払いについて、保有資産額が2万ポンド未満の国民は全額、2万ポンド以上~10万ポンド以下は一部支援が受けられる。
本計画を発表したジョンソン政権に対し、一部からは選挙公約違反だとの批判も出ている。同氏が率いる保守党は、2019年の総選挙のマニフェストの中で、「所得税や付加価値税(VAT)、国民保険料は引き上げない」と約束していた。ジョンソン首相は上述の声明で、公約違反を認めた上で、世界的な「新型コロナウイルス禍」は誰も予見できなかったと釈明し、理解を求めた。なお、本案は9月8日の下院の第1読会(注)で、319対248の賛成多数で可決された。
産業界からは批判の声
今般の増税計画に対して、産業界からは厳しい意見が聞こえている。英国産業連盟(CBI)の同日付の反応においてカラン・ビリモリア会長は、法人税が2023年から半世紀ぶりに引き上げられる(2021年3月9日記事参照)ことにも触れ、増税の時期は今ではないとの見解を示した上で、「今こそ、経済への投資と成長を促すべき」と発言。英国商工会議所(BCC)のスレン・ティル経済担当責任者も同日、「既に多くの新たなコスト圧力に直面している企業に多額のコストを課すことで、より広範な経済回復に影響を与え、回復促進に必要な起業家精神の減退につながる」と発言し、企業への負担増に危機感を募らせた。
(注)議会審議において、最初の形式的な段階。法案内容はここでは審議されない。
(尾崎翔太)
(英国)
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