欧州委、非財務情報開示指令の改正案発表、対象企業が大幅に拡大
(EU)
ブリュッセル発
2021年04月23日
欧州委員会は4月21日、欧州グリーン・ディールにおける持続可能な資金調達に関する政策パッケージ(2021年4月22日記事参照)の一環として、企業持続可能性報告指令案を発表した。これは、企業の年次報告書での財務情報に関する従来の規制に加え、環境や社会的課題、ガバナンスなどの非財務情報の開示に関する2014年の指令(注1)などを改正するものだ。現行の2014年指令に導入された気候変動などの持続可能性に関する課題がいかに事業に影響を与えるか、また、企業活動がいかに社会や環境に影響を与えるかについて、企業に報告を求めるという原則を維持しつつ、今回の改正指令案は企業の開示する情報の内容を強化し、企業間の比較可能性を確保するとともに、開示情報の信頼性を高めることを目的としている。今回の改正案で大きな柱となるのが開示義務の対象の拡大と、持続可能性に関する事項の新たな開示基準の設定だ。
全ての大企業が開示義務の対象、中小企業も一部対象に
現行の2014年指令では、開示対象となるのは上場企業を中心に、従業員数が500人を超える大企業などに限定しているが、改正案では、開示対象が非上場の企業も含む全ての大企業(注2)と、一部例外を除き中小企業を含む全ての上場企業に拡大する。これにより、開示義務の対象となる企業数は、現在の約1万1,700社から約5万社へと大幅に増加するとみられる。
新たな開示情報の基準となる持続可能性開示基準そのものは、改正案には含まれておらず、今後、欧州財務報告諮問グループ(EFRAG)が草案を起草した上で、欧州委が委任法令として採択する予定だ。これとは別に、中小企業向けの持続可能性開示基準も委任法令で採択するとしており、開示義務のある上場している中小企業だけでなく、開示義務のない非上場の中小企業も自主的に利用できるものとする。
このほか、改正案では、開示情報の信頼性を高めるために、EUレベルでは初となる持続可能性情報の監査要件も導入する。ただし、導入当初は企業の負担などを考慮し、要件の範囲は限定的なものにとどめるとしている。
今後、EU理事会(閣僚理事会)と欧州議会が改正案を審議する予定で、両機関による採択が早期に進んだ場合、開示義務の対象となる企業は2024年(2023年会計年度分)から新たな持続可能性開示基準による開示が求められることになる。
(注1)詳細は調査レポート「EUにおける企業の非財務情報開示指令案を巡る動向(690KB)」を参照。
(注2)大企業とは、(1)貸借対照表の合計額が2,000万ユーロ超、(2)純売上高が4,000万ユーロ超、(3)年間の平均従業員数が250人超のうち、2つ以上を満たす企業。
(吉沼啓介)
(EU)
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