半導体産業の競争力維持のため、研究開発・人材育成を強化
(台湾)
中国北アジア課
2021年04月23日
台湾の行政院科学技術会報室は4月15日、「米中科学技術戦争下における半導体の研究開発および人材配置の展望」(以下、展望)を発表した。展望では、中国が第3世代半導体(注1)の研究開発に注力することを宣言し、米国が半導体産業支援に500億ドルを投じるなど、国家間の競争が激化する状況と、2030年には回路の線幅が1ナノメートル(注2)を突破すると予想される技術競争を踏まえ、人材育成や材料、技術面での研究開発を強化し、台湾の半導体産業の競争力を維持する、としている。具体的には、人材育成や研究開発について以下の4点の方向性を打ち出した。
- 人材育成:2021年第3四半期以降、半導体関連の人材を毎年新たに1万人増やす。関連学部の定員を10%、修士課程の定員を15%増加させるほか、企業と大学が共同で3~5カ所の研究センターを設立する。
- 2025~2030年の中長期の半導体研究計画:中期的には、オングストローム世代半導体(線幅0.1ナノメートル以下)および次世代の化合物半導体の開発を行い、パソコンや電気自動車、第5世代移動通信システム(5G)などの通信への応用を進める。長期的には量子デバイスの研究開発を行い、2030年以降、量子コンピュータへの応用を目指す。
- 高雄半導体材料専区の建設を推進し、2030年までに南部に半導体材料関連企業を集積させる。石油化学コンビナートがある高雄市を半導体材料研究開発の中心地とし、南部科学園区から高雄市にかけて、台湾積体電路製造(TSMC)や日月光半導体製造(ASE)といった関連企業の工場が立地する地域を結んだエリアを、南部半導体材料Sロードとして重点的に発展させる(添付資料図参照)。
- 2035年にかけて、273億台湾ドル(約1,064億円、1台湾ドル=約3.9円)を投じて新竹科学園区の工場のフロア面積を、5万3,000平方メートルから36万6,000平方メートルに拡張する。
経済部によれば、2020年時点で台湾のファウンドリー(半導体の受託生産)は世界シェアの7割を占め、世界1位のTSMCだけでシェア50%を超える。特に先端半導体の生産で世界をリードしており、米国半導体工業会(SIA)によれば、線幅10ナノメートル以下の製造工場の92%が台湾、8%が韓国に立地している。生産能力で圧倒的な強さを持つ台湾の半導体産業だが、半導体材料は米国からの輸入に頼る割合が多い。米国の輸出管理規則(EAR)により、半導体材料の輸入が規制されるリスクは高く、台湾当局は材料の自主開発・生産が急務としている。
台湾の半導体企業は2020年時点で約290社あるが、多くが北部の新竹科学園区に集積している。台湾当局は、自然災害などのリスクを分散する観点からも、中部および南部科学園区の拡張を進めており、南部に位置し、石油化学コンビナートがある高雄市を半導体材料の開発重点エリアとして発展させたい考えだ。
(注1)窒化ガリウム(GaN)や炭化ケイ素(SiC)などの化合物を使った次世代半導体。現在主流のシリコンなどを用いた半導体と比べ、高い電圧、周波数、温度で作動させることできるため、5Gや新エネルギー自動車をはじめ、広い用途で活用が期待される。
(注2)現在の最先端半導体の回路線幅は、5ナノミリメートル。2020年にTSMCが世界で初めて量産を開始した。
(江田真由美)
(台湾)
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