大統領が炭化水素法改正法案を国会に提出、与党は4月末までの可決を目指す
(メキシコ)
メキシコ発
2021年03月30日
メキシコのアンドレス・マヌエル・ロペス・オブラドール(AMLO)大統領は3月26日、連邦下院に炭化水素法改正法案を提出した。法改正の目的は「エネルギー安全保障や主権を保護するために国有企業を強化する」こと。改正のポイントは、石油製品の輸入・流通・販売などに関する、主に以下4つの内容だ。
- 石油精製品に関する許認可の付与は、最低限の貯蔵能力を条件とする
- 許認可の他者への譲渡に関する当局の承認が法定審査期間内に行われない場合、申請は却下されたものとみなす
- 法律違反を繰り返したり、精製品の密輸を行ったりしたものに対する許認可の取り消し
- 国防、エネルギー安全保障、国家経済にとって差し迫った危険が存在する場合の許認可の一時的取り消し
今回の法改正で最も重要なのは、上記1.と4.とみられている。1.は、石油精製や輸送・貯蔵・流通・販売など、中流・下流部門の許認可取得要件(炭化水素法第51条)として、従来は「貯蔵能力」という要件がなかった。今回、「エネルギー省が別途定める貯蔵能力」を要件として加えるとともに、付則4条で、法改正の施行時にエネルギー省が定める貯蔵能力を有しない企業に対する、許認可の取り消しを定めた。4.では、国防やエネルギー安全保障、国家経済の差し迫った危機に際し、民間事業者に与えた許認可を一時的に取り消す権限を、エネルギー省やエネルギー規制委員会(CRE)に与える。最終消費者や第三者の権利を保護するため、許認可を取り消した事業者の運営や操業を当局が一時的に引き継ぐことを定めているほか、許認可の停止期限は当局が定めるとしている。
「偽装された収用」で、憲法や国際協定に違反するとの声も
今回の法改正案に対し、国防やエネルギー安全保障など不透明な根拠を基に、国が民間事業者への許認可を取り消し、その操業を引き継ぐことは「偽装された収用」だと指摘する声や、憲法や国際協定に違反し、電力産業法改正と同様(2021年3月22日記事参照)、多くの訴訟を招くと指摘する識者が多い(主要各紙3月29日)。今回の法改正案に先立ち、エネルギー省および経済省は、2020年12月26日付官報で公布した省令に基づき、石油精製品の輸入許可として従来の20年の長期許認可を廃止し、1回のみ延長可能な5年間の許可に変更していた。しかし、この省令に対しては、多くの事業者から庇護(ひご)訴訟(アンパロ、注)が提起され、2021年2月22日に適用差し止めが確定していた。
与党・国家再生運動(Morena)の下院議員団は3月29日、翌々日にもエネルギー委員会を招集し、法案の審議を開始することを下院執行部に通知した。4月末までの通常国会会期内に法案を成立させたい考えだ(「レフォルマ」紙電子版3月29日)。
(注)行政府や立法府、司法府などの行為により、憲法が保障する国民や企業の基本的権利が侵害された場合、当該行為の差し止めおよび無効を求める裁判制度。
(中畑貴雄)
(メキシコ)
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