イングランドに経済特区「フリーポート」8カ所設置を発表

(英国)

ロンドン発

2021年03月11日

英国のリシ・スーナック財務相は3月3日、2021年度予算案の発表(2021年3月9日記事参照)の中で、「フリーポート」と名付けられた経済特区を、イングランド内に8カ所設置することを発表した。選定されたのは、イースト・ミッドランズ空港、フェリックストー/ハリッジ、ハンバー、リバプール都市圏、プリマス、ソレント、テムズ、ティーズサイドの8カ所(添付資料図参照)。政府はフリーポートをEU離脱後の好機として、民間投資呼び込みと雇用創出による地域再生の目玉政策に設定。全国で10カ所以上、うち各自治政府に少なくても1カ所の設置を計画しており、2020年11月からイングランドで先行して公募プロセスを行っていた。

フリーポートは、一般の地域と異なる税関規則が適用される地域で、簡素化された通関手続きの下、関税や輸入付加価値税(VAT)、物品税は保税となる。フリーポートで加工などを行う場合は、同区域から英国内市場に移送する最終製品の関税率が適用されるため、部品より最終商品の関税率が低い場合には、節税効果も生じる。

そのほかにも優遇措置として、土地や建物、機械設備の取得費用の控除やビジネスレート(事業税)の免除なども一定期間適用される(添付資料表参照)。

一方で、フリーポートは脱税目的で利用されたり、既存企業が移転したりするだけで新たな雇用を生まないとして、経済的効果に懐疑的な意見もある。英国の労働組合会議(TUC)のフランシス・オグラディ書記長は「フリーポートは雇用を創出しない。世界各地のフリーポートが群がる雇用主の税金逃れを許している」と厳しくコメントしている。英国には1984年以降、最大7つのフリーポートがあったが、脱税懸念などから2012年に閉鎖されている。

こうした中、自治政府は、より慎重な反応を示している。スコットランド自治政府は2021年1月、経済特区「グリーンポート」の計画を発表。入居企業には、従業員への生活賃金「real Living Wage(注)」の支払いや、持続可能な成長、温室効果ガス排出の純排出ゼロへの貢献などを求める。3月1日には、英国全体で公平に進めることが重要とし、国土の3分の1を占める同地域には2カ所のグリーンポートを設立すべきと英国政府に求めた。ウェールズ自治政府は3月3日、政府と協力してフリーポート導入を検討するとした一方で、同自治政府の政策に合致し、イングランドと同等の利益・資金を得られることを条件とした。

スーナック財務相は、フリーポートは英国全体の政策であり、北アイルランドを含む各自治政府と協力するとしている。

(注)非営利団体「Living Wage Foundation」によるキャンペーンで、最低限の生活水準の維持に要する生計費から、必要な賃金水準を設定したもの。

(宮口祐貴)

(英国)

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