英アストラゼネカ・ワクチン、EMAは安全性判断、欧州委は供給不足に不満

(EU、英国)

ブリュッセル発

2021年03月22日

欧州医薬品庁(EMA)は3月18日、欧州委員会が1月に条件付き販売承認をした英国のアストラゼネカが製造する新型コロナウイルスワクチンに関して、「安全かつ有効」と結論付ける声明外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますを発表した。同社製のワクチンに関して、接種後に血栓ができる事例が複数報告されており、一部のEU加盟国が予防的措置として使用を一時中断していた。EMAは今回の発表で、同社製ワクチンの有効性は、ワクチン接種による入院や死亡といったリスクを大きく上回るとし、また、同社製ワクチンの接種によって全体的に血栓が起こるリスクが高まることはないとした。ただし、因果関係を完全に排除できるだけの十分なデータが集まっていないことから、監視や検証を今後も続けるという。

EMAのエマー・クック長官は同日の記者会見で、感染拡大により多くの死亡者が現在も出続けていることを指摘し、同社製ワクチンは「安全かつ有効」であり、使用を継続する必要があると強調した。今回の発表を受けて、接種を一時中断していた多くの加盟国で、19日から接種が再開されている。

欧州委、供給不足解消に向けアストラゼネカにさらに圧力かける方針

アストラゼネカ製ワクチンをめぐっては、供給の大幅な遅れも問題になっており、欧州委は今後の対応の方向性を示した。欧州委のウルズラ・フォン・デア・ライエン委員長は3月17日の会見で、同社製ワクチンに関して、2021年第1四半期(1~3月)の供給予定が当初の9,000万回分から3分の1の3,000万回分となり、第2四半期(4~6月)の供給予定が1億8,000万回分から7,000万回分へ大幅な減少になるとの見通しを示した。欧州委が1月末に導入したワクチン輸出の許可制度(2021年2月1日記事参照)にも言及し、許可の審査では「相互主義」と「比例性」を考慮するとした。「相互主義」とは、EUからのワクチン輸出がワクチン生産国向けの場合、当該国からEUへのワクチン輸出も求めるというもので、「比例性」とは、EUからの輸出先のワクチン接種率がEUのワクチン接種率よりも高いかどうかを考慮するというものだ。

特に、アストラゼネカ製ワクチンの生産地で、EUよりワクチン接種が進んでいる英国が、EUからのワクチンの最大の輸出先になっていることを指摘し、英国とアストラゼネカを念頭においていることを明らかにした。また、欧州委の報道官は3月18日の会見で、アストラゼネカとの事前購入合意の規定に基づく紛争解決プロセスによる協議の開始に必要な通知を、できるだけ早い段階で同社に送る用意があることを発表した。協議によって解決されない場合には、欧州委のあるブリュッセルに所在する裁判所で法的手続きが取られる可能性がある。

(吉沼啓介)

(EU、英国)

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