欧州委、十分な水準の最低賃金を目指す法案発表
(EU)
ブリュッセル発
2020年11月02日
欧州委員会は10月28日、労働者の生活維持に必要な最低賃金の水準の確保を目的とする指令案を発表した。EUにおける労働者に占める貧困層の割合は約10%で、近年は上昇傾向にある。また、新型コロナウイルスの感染拡大は、小売りや観光など、従来から低賃金労働者の占める割合が高い産業により大きな打撃を与えており、こうした低賃金労働者層への深刻な影響が懸念されている。法定最低賃金を定めているほぼ全てのEU加盟国で、その水準は総賃金の中央値の60%以下あるいは総平均賃金の50%以下であり、最低賃金の水準としては十分ではないことから、欧州委は各加盟国での最低賃金の底上げを目指す。
最低賃金の一律的な引き上げでなく、最低賃金の設定枠組みの導入が目的
今回の法案はまず、労使間の団体交渉の組織率が高い加盟国では低賃金労働者の割合が低く、最低賃金の水準も高いことから、組織率が70%以下の加盟国に重点を置くものの、全加盟国に対して組織率を高めるための対策を求める。また、監督体制の強化などを通じた最低賃金の実効的な適用の確保なども要請する。さらに、法定最低賃金を定めている加盟国に対しては、最低賃金に基づく購買力、総賃金の一般的な水準とその分布、総賃金の上昇率などの客観的な指標に基づくことと、特定の労働者に対する異なった法定最低賃金の適用や、法定最低賃金の減額適用をできる限り避けることなどを求める。
欧州委によると、同法案はあくまで十分な最低賃金の設定のための枠組みを提供するもので、EU域内での共通最低賃金の導入を目指すわけでも、各加盟国の法定賃金の引き上げや最低賃金の水準を直接的に設定するものでもないとしている。また、現時点で21の加盟国で法定最低賃金を定めており、北欧諸国を中心に6加盟国では労働協約によって最低賃金を設定しているが、当該6加盟国に対して法定最低賃金の設定を求めるものでもないとしている。
同法案は今後、EU理事会(閣僚理事会)と欧州議会で審議されることになるが、労働協約型の最低賃金モデルが効果的に機能しているとするデンマークなど北欧諸国は当初から懸念を示しており、産業界でもビジネスヨーロッパ(欧州産業連盟)が同法案への明確な反対声明を発表するなど、同法案に対するコンセンサスがあるとは言い難いことから、今後の審議の行方が注目される。
(吉沼啓介)
(EU)
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