欧州委、「英国国内市場法」案を厳しく批判
(EU、英国)
ブリュッセル発
2020年09月11日
EU離脱協定を実行に移すための英国・EUの合同委員会の特別会合が9月10日にロンドンで開催され、欧州委員会は会合後に声明を発表した。今回の会合は、9日に英国が公表した「英国国内市場法」案を受けて、EU側が説明を求めて開催を申し入れた。
「離脱協定と国際法の重大な違反」と欧州委
声明で欧州委のマレシュ・シェフチョビチ副委員長(EU機構関係・将来展望担当)は英国の法案について、現行案のまま採択されれば、離脱協定と国際法の極めて重大な違反を構成すると厳しく批判した。同法案の北アイルランド議定書に規定する通関手続きや国家補助に関する箇所の一部の規定が「国際法や他の国内法令との不一致または不適合性(inconsistency or incompatibility)にかかわらず効力を有する」と明記している。欧州委は、こうした内容が北アイルランド議定書第5条(通関手続き)と第10条(国家補助)に明白に違反するだけでなく、離脱協定本文の第4条(協定の実施方法)と第5条(信義誠実原則)にも反すると指摘した。
また欧州委は、英国側は法案の目的が1998年の英国・アイルランド間のベルファスト合意を守ることにあると主張しているが、真逆の結果となるとの見方を示した。
シェフチョビチ副委員長は「この法案を提出したことで英国はEUと英国の間の信頼を深刻に傷つけた。信頼を取り戻せるかは英国政府にかかっている」として、英国政府に対し違反する箇所を同法案から速やかに、遅くとも月末までに撤廃するよう求めた。さらに、英国が修正に応じない場合には、離脱協定上の紛争解決や法的救済メカニズムの活用をためらうものではないと警告した。
将来関係協議第8ラウンド、立場の違い埋まらず
また、9月8~10日にEU・英国の将来関係協議の第8ラウンドがロンドンで開催され、欧州委員会のEU英国将来関係タスクフォースのミシェル・バルニエ代表は協議を終えて10日、声明を発表した。それによると、EUは漁業やEU司法裁判所の役割などに関して柔軟性を示したものの、英国は「相互主義的な立場で取り組んでおらず」、EUが重視する論点で「顕著な差異が残っている」という。主要な争点となってきた「公平な競争条件」については、EUは英国が9日に公表した「補助金の管理に関する新しいアプローチ」をテークノートするが、同内容は2019年10月の政治宣言の合意内容に及ばないと評した。社会的および雇用面の基準、環境・気候変動などについても、英国は高い水準の維持を保証していないと指摘した。
バルニエ氏は引き続き交渉を続ける姿勢を示しつつも、「EUは2021年1月1日からのあらゆるシナリオに対処すべく準備を強化している」と締めくくった。
(安田啓)
(EU、英国)
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