欧州委、エネルギー効率性向上のための総合戦略を発表

(EU)

ブリュッセル発

2020年07月10日

欧州委員会は7月8日、「エネルギーシステム統合戦略PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)」と題したコミュニケーション(政策文書)を発表した。欧州グリーン・ディール政策の一環として、分散したエネルギー供給網を見直し、エネルギー効率性の向上を図る諸政策をまとめたもの。EUが長期目標に掲げる2050年の気候中立(二酸化炭素の排出実質ゼロ)を、可能な限り低いコストで実現するためのエネルギー分野への投資誘導を促進する狙いがある。同時に、雇用創出と欧州産業の強化につなげ、「新型コロナウイルス危機」からの経済復興を前進させたい意向だ。

エネルギー循環、再エネ利用の拡大、クリーン燃料への移行、が3本柱

同戦略は、以下の3点を柱とし、より統合されたエネルギーシステムのための38の具体的な行動計画を提示している。

(1)エネルギー効率性を重視した、より循環型のエネルギーシステム

「エネルギー効率性第一」を原則とし、よりローカルな資源を用いることで資源ロスを低減する。産業廃棄物やデータセンター、食物残渣などを由来とする熱資源の利用などエネルギー循環を推進する。具体的な行動計画の例として、ビル・施設の熱効率を高める改築を後押しする欧州委の取り組み「リノベーション・ウェーブ」(2020年秋に政策文書を公表予定)が挙げられた。

(2)再生可能エネルギーの利用拡大

脱炭素化を進めるべく、可能な分野では石油など化石燃料の使用を再生可能エネルギー電力に代替する「電化(direct electrification)」を図る。再生可能エネルギー需要を創出することで、同電力の生産価格を低減させ、エネルギー効率の向上につなげる。具体例としては、電気自動車の普及や、ビル・施設への熱供給用ヒートポンプの普及、電炉の導入などを挙げた。行動計画では、電気自動車の普及のために、2025年までにEU域内の充電スタンドを100万カ所以上に拡充する必要性を指摘し、そのための資金調達の呼びかけを早期に行うとしている。

(3)クリーン燃料への移行

電化が困難もしくは高コストとなる産業においては、化石燃料から、よりクリーンな燃料への移行を進める。特に再生可能な水素燃料をEUにおけるエネルギーシステム統合の核となる技術と位置づけ、欧州委は同日「水素戦略」を発表した。

同戦略では、「エネルギーインフラへの投資の耐用年数は通常、20~60年程度であり、次の5~10年は2050年の欧州気候中立に向けたエネルギーシステムを構築する上で決定的な意味を持つ」と指摘。欧州委のフランス・ティーマーマンス上級副委員長(欧州グリーン・ディール政策統括、気候変動対策担当)も「現在のエネルギーシステムは、無駄が多すぎ、かつ持続可能な将来のためには硬直的すぎる。総点検が必要だ」と述べ、戦略を速やかに実行に移す意義を強調した。

(安田啓)

(EU)

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