トランプ米大統領、対中国措置を発表、香港への国家安全法導入を受けて
(米国、中国、香港)
ニューヨーク発
2020年06月01日
トランプ米国大統領は5月29日、中国政府が香港に国家安全法を導入したことを受けて、中国と香港に対する米国の措置を発表した。香港に与えている優遇措置の見直しや、中国人留学生や研究者などへの米国入国制限などが含まれる。
香港への特別待遇停止に向けた手続きを開始
トランプ大統領は10分ほどの記者会見の冒頭で、中国による知的財産の窃取やWTOでの合意事項の反故(ほご)など、これまでの一連の国際ルール違反を非難した。その上で、さらに今般、香港の自治を守るとした国際合意を破ったとし、米国は自らの国益を守らねばならないと強調した。
大統領は「香港はもはや、米国が香港の中国返還以降に与えてきた特別な待遇を保障するのに十分な自治を維持できていない。中国は約束してきた『一国二制度』を『一国一制度』に転換した」とし、政権幹部に対して、米国が香港に認めてきた優遇措置を撤廃する手続きを進めるよう指示するとした。具体的に影響が見込まれる政策として、香港との間に存在する犯罪者の引き渡し条約やデュアルユース品目(軍事・民生ともに利用できる品目)の輸出管理に関する例外措置の取り消し、国務省による香港への渡航注意情報の勧告レベルの見直し、中国本土とは異なる関税圏・渡航圏としての香港の扱いを取り消す措置も行っていくとした。さらには、香港の自治権剥奪に関与した中国および香港の政府要人に対して強力な制裁措置を科す考えも示した。
一部学生ビザでの中国からの入国を停止
また、大統領は同29日付で、米国の技術を守るため一部の中国籍渡航者の入国を停止する大統領布告も発表した。米東部時間6月1日正午以降、大学の学部生を除き、FビザまたはJビザに基づき米国で研究を行うため渡米しようとする中国籍保有者で、中国政府による「軍民融合戦略(military-civil fusion strategy)」(注)を実施・支援する組織体に関わっている、または過去に関わっていた者の入国を停止する。
加えて、大統領は米国の金融システムと投資家を守るために、政権の作業部会に対して、米国の株式市場に上場している中国企業の動向に関する検証を開始させるとした。関連する動きとして米上院は5月20日、企業が米公開会社会計監督委員会(PCAOB)の監査に3年連続で従わない場合、米国証券取引所への上場を禁止する法案(S.945)を全会一致で可決している。この法案は上場企業に対して外国政府の管理下にあるか否かを公開することも求めており、中国企業を念頭に置いている。法案は5月22日に下院に提出されたが、5月29日時点で採決はまだ行われていない。
また、大統領は29日の同じ発表の中で、世界保健機関(WHO)による新型コロナウイルスへの対応を非難し、WHOは中国に支配されていると批判して、米国はWHOとの関係を終わらせると表明した。
(注)大統領布告では、中国政府もしくはその要請に基づいて中国の軍事能力発展のために重要・新興技術をはじめとした外国の技術を取得・転用する行為、と定義付けている。同令に関するファクトシートも参照。
(磯部真一)
(米国、中国、香港)
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