EU離脱交渉が合意、バックストップ削除も将来関係には距離
(英国、EU)
ロンドン発
2019年10月18日
欧州理事会(EU首脳会議)当日の10月17日午前、英国のEU離脱(ブレグジット)をめぐる英国とEUの再交渉がついに決着した。双方が合意した新たな離脱協定と政治宣言の草案は、同日午後の欧州理事会で承認された。
2018年11月25日の欧州理事会で承認された両文書と、今回合意された新案の主な相違点は表と添付資料を参照。EUが一貫して認めなかった離脱協定案の修正は、英国のボリス・ジョンソン首相が強く主張してきた「アイルランド・北アイルランド間の『バックストップ』の削除」というかたちで実現した。ただし、新協定案に盛り込まれた新たな方策は、2018年2月にEUが提示した、最初のバックストップ案に近いものだ。英国全体がEUとの関税同盟に留め置かれる懸念がなくなった代わりに、北アイルランドではEUの通関制度の下で運用され、物品の規格・認証や付加価値税(VAT)・物品税などもEU規制に従う。これらの措置の継続は、北アイルランド議会での英国派、アイルランド派の両派の意思が反映されている。
新たな政治宣言案が描く英国・EUの将来関係は、旧離脱協定案のバックストップ条項が規定した英国全土を含む関税同盟から自由貿易協定(FTA)に基盤を移し、物品貿易については旧案より緊密性が下がった。他方、離脱協定案では大きく後退した公正な競争条件(レベルプレイングフィールド:LPF)に基づく規定は、政治宣言案でより詳細に記述されている。関税同盟を志向しないため、LPFの必要性は下がったが、将来EU、と緊密な通商関係を築くなら、LPFが条件になるとEUがくぎを刺した格好だ。
ジョンソン首相はこの合意を、「主権を取り戻す素晴らしい新合意」と主張し、バックストップを削除した成果を強調。10月19日に招集する議会で承認するよう、議員らに訴えた。
しかし、前日まで態度を保留していた(2019年10月17日記事参照)北アイルランドの民主統一党(DUP)は、合意成立後の声明で「ベルファスト合意を無視するもの」と反発。10月19日の議会で、新合意の採決に反対する考えを明確にした。物品規制に加え、通関制度の運用も北アイルランドだけ別の扱いとなり、北アイルランド議会の同意採決方法も通常と異なることなどを問題視しているためだ。最大野党・労働党など他の野党も、関税やVATに関する手続きなどが事業者の負担を増加させ、労働・環境規制をEUに連動させる可能性も後退したことなどから、一斉に反発している。
英国与党・保守党のEU離脱強硬派勢力、欧州調査グループ(ERG)に所属する議員の多くは、まだ態度を表明していない。強硬派が新合意支持に回り、労働党議員の造反も増えれば、採決で過半数に届く可能性もある。議会通過に向け、ジョンソン政権は支持獲得に全力を挙げる。
(宮崎拓)
(英国、EU)
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