鉄鋼摩擦の自動車産業への飛び火を警戒する欧州
(EU、米国)
ブリュッセル発
2018年07月20日
欧州委員会のセシリア・マルムストロム委員(通商担当)は7月19日、米国のジャーマン・マーシャル財団(GMF)が主催したブリュッセルでのイベントで講演を行い、米国との間で紛糾する通商摩擦を念頭に「貿易戦争に勝者はいない」と語った。
同委員は今回の講演で、米国が今後、EUの自動車輸出に対しても追加関税賦課に踏み切る可能性に警戒感を強めた。また、第二次世界大戦後の欧州の復興計画を主導した米国のジョージ・マーシャルの言葉(「戦争に勝利する唯一の方法は戦争を始めないことだ」)を引用し、「この金言は貿易戦争にも当てはまる」と警鐘を鳴らす。しかし、同時にコンセンサス重視のWTOのアプローチは限界を迎えているとして、改革の必要性も認め、米国を牽制するだけではなく、EUとして譲歩する余地があることも示唆した。
なお、7月25日には欧州委のジャン=クロード・ユンケル委員長と米国のドナルド・トランプ大統領の首脳会談が予定されている。EUと米国の通商関係が緊迫する中、マルムストロム委員はユンケル委員長と共に渡米し、米国の通商当局関係者や議会関係者と会談する予定だ。
EUの暫定セーフガード措置をめぐる隔たり鮮明な欧州産業界
他方、EUの鉄鋼セーフガードに関する暫定措置をめぐる、欧州産業界の論戦(2018年7月19日記事参照)は収まっていない。EUとしての暫定措置発動を支持する、欧州鉄鋼連盟(EUROFER)は7月19日付の声明で「鉄鋼ユーザー産業の復調もあり、2018年のEU鉄鋼市況は堅調だが、2019年の市況予測も考慮すれば、鉄鋼需要は鈍化が見込まれる。また、最近の保護主義的通商措置を背景に、不確実性は強まっている」との展望を示し、EUとしての今回の暫定措置発動の必要性を強調した。
これに対して、EUの暫定措置発動に反対の立場の鉄鋼ユーザー産業界は鉄鋼価格上昇リスクに危機感(2018年6月28日記事参照)を募らせる。また、欧州自動車部品工業会(CLEPA)も同日付で声明を出し、7月19日に米国商務省が「自動車・同部品の輸入が米国内の安全保障上の脅威なり得るのか(この対策として25%の追加関税賦課の対象とすべきか)」を判定するための公聴会を開催することに危機感を強め、「米国内の自動車部品産業からも米国政府の動きに対する強い反発の声が上がっている」と強調した。
(前田篤穂)
(EU、米国)
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