太陽光発電製品に対してもセーフガードを発動へ-トランプ政権によるセーフガード措置(2)-
(米国)
ニューヨーク発
2018年01月30日
トランプ大統領が1月23日に発出した太陽光発電製品と大型家庭用洗濯機の輸入に対する緊急輸入制限措置(セーフガード措置)発動の大統領布告のうち、太陽光発電製品へのセーフガード措置について。連載の後編。
セルの輸入は関税割当制、2月7日から適用
トランプ大統領は1月23日、太陽光発電製品の輸入に対してセーフガード措置の発動を命じる大統領布告(Presidential Proclamation)を発出した(同時に発表した大型家庭用洗濯機に対するセーフガード措置については2018年1月29日記事参照)。
米国国際貿易委員会(USITC)は2017年9月22日に太陽光発電製品の輸入が国内産業の重大な損害の実質的要因になっているとの判断(2017年9月29日記事参照)を下しており、11月13日に大統領に措置内容の提案を含めた勧告を提出している〔その後、通商代表部(USTR)の要請に応じて追加レポートを別途提出〕。今回の大統領布告はUSITCの勧告を受けた上で、トランプ政権として具体的な輸入制限措置の内容を決定し、その発動を命じる内容になっている。
発動するセーフガード措置は、セルについては関税割当制を取っており、発電量2.5ギガワット相当を超える太陽光発電セル(厚さ20マイクロメートル以上の結晶シリコン製)が輸入された場合に年ごとにセーフガード関税を通常の関税に上乗せで賦課する。企業には輸入時に、輸入セルの発電量を税関に申告することが求められている。
また、セルのモジュール(HTSコード:8541.40.60、セルも含む)や発電機(8501.31.80、8501.61.00)や蓄電池(8507.20.80)などの一部部品に対してもセーフガード関税が課される。これらについてはセーフガードの無税枠は設定されていない。なお、薄型フィルムの太陽光発電パネルや、消費財に組み込まれた小型のセル、米国製セルを組み込んだ製品などは対象外とされている。
セーフガード措置の発動期間は4年間で、2018年2月7日から適用される(表参照)。税率は、1年目は30%で、その後は毎年5ポイントずつ引き下げられる。USITCの調査結果に基づき、太陽光発電製品は国内産業への損害認定が大きかったため、WTO協定上で認められている最長4年間の措置が取られたと考えられる。
項目 |
1年目 (2018年2月7日~ 2019年2月6日) |
2年目 (2019年2月7日~ 2020年2月6日) |
3年目 (2020年2月7日~ 2021年2月6日) |
4年目 (2021年2月7日~ 2022年2月6日) |
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太陽光発電セル・ モジュールに対するセーフガード関税 | 30 | 25 | 20 | 15 |
(セルのみ)セーフガード関税免除の輸入量上限 | 2.5 | 2.5 | 2.5 | 2.5 |
(注)対象HTSコード:8541.40.60、8501.31.80、8501.61.00、8507.20.80。
(出所)USTR資料、大統領布告
中国企業の迂回措置への対抗策と強調
セーフガード措置は、アンチダンピング(AD)など他の貿易救済措置とは異なり、原則、全ての貿易相手国からの輸入が対象になる。ただし、WTOのセーフガード協定第9条は一定の条件(注1)を満たす開発途上国からの輸入については、セーフガード措置の適用除外とすることを定めている。トランプ政権はこの規定にのっとり、条件を満たさないタイとフィリピンを除いた一般特恵関税制度(GSP)対象国(注2)からの輸入を、セーフガード措置の適用対象外とした。
また、米国が締結する自由貿易協定(FTA)には、FTA締結国からの輸入が米国の国内産業の深刻な侵害に大きく寄与していない場合は、これらの国からの輸入をセーフガード措置の適用を除外する規定が盛り込まれている。USITCは、北米自由貿易協定(NAFTA)の規定に基づき、カナダからの輸入については国内産業の深刻な侵害に寄与していないと判断していたが、トランプ政権はカナダに対してもセーフガード措置を発動することを決定している。USITCは、NAFTA以外のFTA締結国についても韓国からの輸入を除いて国内産業への侵害を認めなかったが、トランプ政権はその他の国についてもFTAに基づく適用除外は行わなかった。
なお、HTSコード8541.40.60に基づいて、2016年の太陽光発電セル(パネル化・モジュール化したものを含む)の輸入額(87億ドル)を国別にみると、マレーシア(25億ドル)、中国(15億ドル)、韓国(13億ドル)からの輸入が上位を占めており、特に近年ではマレーシアからの輸入が増加している(図参照)。マレーシアは、米国企業のサンパワーやファースト・ソーラーのほか、パナソニックや韓国系のハンファQセルズなどが太陽光発電セルの生産拠点を置き、近年では晶科能源(ジンコソーラー)やJAソーラーなど中国企業も進出している。
USTRは、中国製太陽光発電製品に対して米国政府がADや補助金相殺措置を発動して以降、中国企業が生産拠点を国外に移転し、これら貿易救済措置の関税を回避してきたと批判し、今回のセーフガードが中国企業の迂回行為に対する対抗措置であることを強調している。
米中間では、これまでも太陽光発電製品をめぐる貿易紛争が続いてきた。2012年に米国政府は、中国製太陽電池セルの輸入にAD関税や相殺関税(CVD)を課した。その後、中国政府は、これらへの「対抗措置」とみられるかたちで、太陽光発電セルの原料である米国産ポリシリコンにAD措置を発動している。米国政府は2015年にも、太陽光発電パネルやモジュールを対象にしたAD・CVD措置を発動した。
USTRは、今回のセーフガード措置の発表に併せて、中国製太陽光発電製品に現在課している貿易救済措置と、米国製ポリシリコンに中国政府が課しているAD措置について、関係者との協議を行う意思を表明した。
対象国や対象製品が修正される可能性も
大統領布告はセーフガード協定12.3条に定める協議条項にのっとり、米国と他のWTO加盟国が布告発表後30日以内に協議を行い、トランプ大統領が必要と判断した場合には、措置が修正されることを規定している。このため、セーフガードの適用対象外となる国が今後、追加される可能性もある。
大統領布告はまた、同じく布告発表後30日以内に、USTRが商務長官とエネルギー長官と協議を行い、特定製品をセーフガードの対象から除外するべきと判断した場合には、セーフガードからこれら製品を除外するとしている。
(注1)WTOセーフガード協定第9条は、「開発途上加盟国を原産地とする当該産品の輸入の割合が当該産品の総輸入量の3%を超えない場合には、当該開発途上加盟国を原産地とする当該産品について(セーフガード措置が)取られてはならない」「ただし、3%を超えない輸入の割合を有する複数の開発途上加盟国からの輸入の割合の合計が当該産品の総輸入量の9%以下であることを条件とする」と規定している。
(注2)アフガニスタン、アルバニア、アルジェリア、アンゴラ、アルメニア、アゼルバイジャン、ベリーズ、ベナン、ブータン、ボリビア、ボスニア・ヘルツェゴビナ、ボツワナ、ブラジル、ブルキナファソ、ミャンマー、ブルンジ、カンボジア、カメルーン、カボベルデ、中央アフリカ、チャド、コモロ、コンゴ共和国、コンゴ民主共和国、コートジボワール、ジブチ、ドミニカ、エクアドル、エジプト、エリトリア、エチオピア、フィジー、ガボン、ガンビア、ジョージア、ガーナ、グレナダ、ギニア、ギニアビサウ、ガイアナ、ハイチ、インド、インドネシア、イラク、ジャマイカ、ヨルダン、カザフスタン、ケニア、キリバス、コソボ、キルギス、レバノン、レソト、リベリア、マケドニア、マダガスカル、マラウイ、モルディブ、マリ、モーリタニア、モーリシャス、モルドバ、モンゴル、モンテネグロ、モザンビーク、ナミビア、ネパール、ニジェール、ナイジェリア、パキスタン、パプアニューギニア、パラグアイ、ルワンダ、セントルシア、セントビンセント・グレナディーン、サモア、サントメプリンシペ、セネガル、セルビア、シエラレオネ、ソロモン諸島、ソマリア、南アフリカ共和国、南スーダン共和国、スリランカ、スリナム、スワジランド、タンザニア、東ティモール、トーゴ、トンガ、チュニジア、トルコ、ツバル、ウガンダ、ウクライナ、ウズベキスタン、バヌアツ、イエメン共和国、ザンビア、ジンバブエ。
(鈴木敦)
(米国)
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