日EU・EPAが最終合意、2018年内の調印目指す-「投資紛争に関わる解決手続き」は分離し、交渉継続へ-

(EU、日本)

ブリュッセル発

2017年12月11日

欧州委員会は12月8日、EUと日本の経済連携協定(EPA)について最終合意に達したと発表した。欧州委のジャン=クロード・ユンケル委員長は「EUと日本がオープンかつ公正で、ルールに基づく貿易を推進するため、強力なメッセージを発信する」と語り、世界貿易の中でのEPAの意義を強調した。また、ビジネスヨーロッパ(欧州産業連盟)など欧州産業団体もおおむねEPA妥結を評価する声明を発表している。欧州委によると、今後、法的確認・翻訳などの実務作業があるが、2018年内の調印、現在の欧州委体制(ユンケル政権)の任期が満了する2019年秋までの発効を目指す。

欧州委、公正な自由貿易とグローバリゼーションのモデルと評価

欧州委は12月8日、日EU・EPAについて妥結したと発表した。欧州委のユンケル委員長は12月8日早朝(現地時間)、安倍晋三首相との電話会談で最終合意を確認。「(保護主義が台頭する中で)EUと日本はオープンかつ公正で、ルールに基づく貿易を推進するため、強力なメッセージを発信する。今回の合意は、共通の価値や原則を共有し、相互のセンシティブな分野は守りつつ、具体的な利益をもたらすものだ。これから、われわれは合意内容を欧州議会およびEU加盟国に提出するために必要な手続きを行う」とコメントした。

また、欧州委のセシリア・マルムストロム委員(通商担当)も「約束どおり、2017年中にウィンウィン関係を担保する今回の合意をまとめ上げることができた。EUと日本は世界でも最高レベルの基準を保証する、オープンで、ルールに基づく経済を志向する共通のビジョンを持つ。われわれは今回の合意を通じて、自由で公正な貿易、正しいグローバリゼーションを構築する重要性についてメッセージを世界に発信している」「EUと日本が共に2018年の本協定調印を全力で目指すことができてうれしい。そうすることで、EUの企業・労働者・消費者は早期に(EPAの)メリットを享受できる」とコメントした。

欧州委のフィル・ホーガン委員(農業・農村開発担当)は「今回のEPAは、EUが農産・食品貿易に関連して合意した最も重要で広範な協定だ。この結果、EUの農産・食品輸出事業者にとって、(日本という)成熟・洗練した巨大市場での大きな成長機会が期待できる。われわれは(今回のEPAで)EUの輸出事情にマッチするだけでなく、相手国(日本)にとってもメリットのある、自由貿易協定(FTA)のモデルを構築できた。このことはEUが世界貿易ルールや国際標準形成のリーダーとして、グローバリゼーションをEU市民にメリットあるものにできる好例といえる。また、EUの農産・食品輸出は特に農村地域に質の高い雇用をもたらしてくれる」と述べた。

懸案の「投資紛争に関わる解決手続き」などは分離して交渉を継続

今回合意したEPA(貿易と一部投資関連)について欧州委は、EU企業が対日輸出に際して支払ってきた約10億ユーロ(年間)の関税の大半が撤廃され、煩雑な通関措置などの非関税障壁の多くも軽減されるとしている。この結果、農産・食品以外も含めて、日本市場へのアクセスの大幅改善が見込まれると強い期待感を示した。

他方、(現時点で合意に至っていない)「投資保護」「投資紛争に関わる解決手続き」については「今後も交渉を続ける」とし、今回合意したEPAとは分離して協議を進める考えを示唆した。欧州委は「EUと日本は相互の投資環境を安定させる前提で、これらの協議をできるだけ速やかに収斂(しゅうれん)させることでは一致している」とも述べ、残された課題の早期解決にも意欲を示す。

また、今回のEPAとは別個に協議されているEUと日本のデータフローの問題について、欧州委は2017年7月の日EU首脳会議の機会に発表された共同声明で、基本的人権あるいはデータ経済における消費者信頼を醸成する手段として、高い水準の個人データ・プライバシー保護を保障すること、相互のデータフローを重視することで一致していると指摘(2017年7月7日記事参照)。EUと日本は「2018年の早期」にそれぞれの個人データ保護規則に関わる十分性認定を採択する方向で協議を続けるとした。

今後のステップについて、欧州委は以下の作業・手続きを想定している。

○EUと日本は協定文について法的確認作業を進める。

○この作業完了後、EU側は協定原文(英語)を23のEU公用語に、日本側は日本語に翻訳する。

○その後、欧州委は合意内容について、欧州議会およびEU加盟国の承認を得る。

○日EUの「戦略的パートナーシップ協定(SPA)」についても、早期妥結を目指しており、EPAと同じ2018年内に調印する見通し。

○その上で、現在の欧州委体制(ユンケル政権)の任期が満了する2019年(秋)までの発効を目指す。

欧州産業団体からは歓迎の表明が相次ぐ

欧州の産業団体は、総じて今回のEPA妥結について歓迎の意向を示している。

ビジネスヨーロッパ(欧州産業連盟)は「日EU・EPAの最終合意を歓迎する」との声明を発表した。マルクス・バイラー事務総長は「EU・日本双方の企業・市民にとって朗報。今回の合意は相互の関税・非関税撤廃、新たなビジネス機会の創出、相互の経済関係緊密化に貢献する、戦略的に重要な合意」との認識を明らかにした。今回の合意に含まれていない「個人データ保護(日EU間のデータフロー)」「投資紛争解決手続き」の2点については、「近い将来、これらの問題を解決する最善の合意に達することができるだろう」と期待感を表明した。

また、欧州のエレクトロニクス産業を代表するデジタルヨーロッパも「EU・日本の最も野心的な通商協定に喝采」と題する声明を発表。「今回のEPA最終合意は、世界に2国(地域)間通商協定の新たなスタンダードを示す」との認識を示した。デジタルヨーロッパのセシリア・ボネフェルト=ダール事務総長は「今回の合意は長期的にはEUのGDP成長率を0.76ポイント上昇させる効果が期待される、ビジネス環境改善に向けて取り組んだ欧州委と日本政府に感謝したい」とコメントした。

ただし、デジタルヨーロッパは、自由なデータフローを認める条項がEPAに含まれなかった点については「落胆した(disappointed)」との認識を明らかにした。同団体としては、今後もEPAの成果を具体化するために日本の関係産業団体や政策関係者と連携を図っていくとしている。

このほか、欧州ワイン産業協議会(CEEV)は、今回合意したEPAが「速やかに発効するように迅速な批准手続きを求める」との声明を発表した。CEEVのジャン=マリー・バリエール会長は「EPAにより、日本市場で競合国との対等な競争環境を得ることができる」と対日輸出拡大に向けた強い期待感を示した。また、EUの地理的表示(GI)保護制度がEPAを通じて保障されることについても評価した。

(前田篤穂)

(EU、日本)

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