欧州委首席交渉官、財政問題解決は「暗礁」に乗り上げたと言及-第5回ブレグジット交渉会合が終了-

(EU、英国)

ブリュッセル発

2017年10月13日

欧州委員会のミシェル・バルニエ首席交渉官は10月12日、英国のEU離脱(ブレグジット)に関する第5回交渉会合後の記者会見で、今回の交渉に「進展はなく」、現状では「欧州理事会に対して、将来関係について交渉開始を勧告できない」と明言した。特にEU側の関心が高い財政問題解決については「暗礁に乗り上げた」という表現で、テレーザ・メイ英国首相のイタリア・フィレンツェ演説以降も、財政問題解決(清算)についての明確な方針を示さない英国側に、強い不信感を示した。

大きな進展はなく、英国側の姿勢に不信感を示す

欧州委のバルニエ首席交渉官は10月12日、第5回ブレグジット交渉会合閉幕に伴う記者会見の冒頭、「メイ首相のフィレンツェ演説(2017年9月25日記事参照)はブレグジット交渉に活力をもたらした」と語った一方、10月9日から始まった第5回交渉会合での協議状況を念頭に「今週、精力的に交渉を進め、問題点の明確化に努めた。しかし、大きな前進はなかった」と、交渉に進展がなかったことを認めた。同首席交渉官は依然として、「英国のEU離脱について合意し、(通商関係を含む)将来関係を定めるという目標を(英国と)共有している」(交渉は決裂していない)との立場だが、現在の交渉状況では「来週開催予定の欧州理事会に対して、(通商関係を含めた)将来関係についての交渉開始を勧告できない」とも明言した。

また、バルニエ首席交渉官は記者会見の最後に、自身の責務は、欧州理事会が全会一致で決定した条件に忠実に、欧州議会とも常に連携を取りながら交渉を前進させることだ、との認識を明らかにした。

財政問題解決への方針が不明確なままの英国

バルニエ首席交渉官が総括した優先項目ごとの交渉状況は以下のとおり。

1.双方市民の権利保障について

(1)英国のEU離脱協定は長期的な意味で、全ての双方市民の権利保障が実現するように直接的な効果を持つこと

(2)それらの権利(保障)に関わる法解釈はEUと英国の双方で完全に一致させること

この2点については、双方で認識を共有している。このため、その実現を可能にする法制度などの検討を続ける。また、これにはEU司法裁判所の役割も含まれると認識。

他方、ブレグジット以降の「家族の再統合」「社会保障便益の輸出」の問題については、双方に依然として見解の相違が残る。EU側は、例えば10~15年の期間で英国で生活するEU市民は、英国への両親の呼び寄せの権利を認められるべき、また、英国で20年以上勤続しているEU市民はEU加盟国に転居した場合でも、(英国の)社会保障を受給する権利が認められるべきだ、との認識を示している。

そして、EU側にとって重要な点として、EU市民がこうした権利保障を求める場合の認定要件をシンプルにすべき、と英国側が主張していることがある。これについては、EU側でもEU市民にとってもシンプルな手続きにするために、どのような具体的措置があり得るのか、慎重に検討を進めるとしている。

2.北アイルランド問題について

今回の交渉で、英国とアイルランド間の国境線の自由化を担保する「共通旅行区域(CTA)」の継続に関する共同原則について前進があった。今後も、英国がEUの法体系から離脱することに伴う課題克服のために協力関係が必要な分野の洗い出しを続ける。

3.財政問題解決について

英国のメイ首相はフィレンツェ演説で、「英国がEU加盟国として合意した責務を履行する」ことを確認した。これは重要な方針だ。しかし、英国政府は今回の交渉でも、この方針を明確化することができなかった。このため、この分野の交渉は停滞し、技術的な協議を行うにとどまった。そのため、この点については暗礁(deadlock)に乗り上げていると説明した。

政治的妥協の可能性を否定

この「財政問題解決」についての交渉停滞は、ブレグジット交渉全体の進展に影を落とすことが懸念される。メイ首相のフィレンツェ演説直後に開催された第4回交渉会合で、バルニエ首席交渉官は交渉の前進につながると一定の評価をする姿勢をみせた(2017年9月29日記事参照)が、その後、英国側が履行債務額の明確化に至らなかった点に、EU側は不信感を強めているものと考えられる。

バルニエ首席交渉官は今回の記者会見の後半で、現在の交渉状況に対する不快感を示した。同首席交渉官は記者団に対して、「これまでの会見で、『EU側はいつになったら譲歩姿勢を示すのか』と質問されたことがある」が、「われわれが英国に妥協を迫ることもない」と言明し、作業を続けている協定は譲歩の上に成り立つものではないとの認識を示した。市民の権利や北アイルランドのプロセスなどに関しては譲歩するような事項ではなく、複雑、かつ困難な交渉の中で目的と義務を共有し、共通の解決策を見いだすことが双方の責務だと強調した。

(前田篤穂)

(EU、英国)

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