EU首脳会議もCETAの署名承認できず-ベルギー南部ワロン地域政府との交渉は継続-
(EU、カナダ、ベルギー、英国)
ブリュッセル発
2016年10月24日
欧州理事会(EU首脳会議)が10月20~21日、ブリュッセルで開催されたが、ベルギー南部(フランス語圏)のワロン地域政府が反対を表明している「EUカナダ包括的経済貿易協定(CETA)」については、署名承認できなかったことが明らかとなった。また、カナダのクリスティア・フリーランド国際貿易相とワロン地域政府のポール・マニェット首相との直接交渉も不調に終わり、CETA署名をめぐる取り組みは暗礁に乗り上げた格好となった。欧州理事会のドナルド・トゥスク常任議長は、欧州委員会に総力を挙げてワロン地域政府との交渉を継続するよう求めた。
<カナダ国際貿易相による「直談判」も不調に>
ブリュッセルで10月20~21日に欧州理事会(EU首脳会議)が開催され、2日目の10月21日にはCETAが主要議題として取り上げられた。CETAについては、ベルギー南部のワロン地域政府が署名承認に反対したほか、ルーマニアとブルガリアも留保に回り、10月18日に開催されたEU外相理事会では署名承認できなかった(2016年10月19日記事参照)。
また、10月21日には、カナダのフリーランド国際貿易相がワロン地域の首府ナミュールを訪問し、署名承認に向けた説得交渉に当たったが、ワロン地域政府のマニェット首相との協議は不調に終わった。
こうした状況から、今回のEU首脳会議でも、CETAについての署名承認には至らず、会議後の声明に「CETAについての迅速な署名承認と暫定適用開始の重要性を確認」「残された問題の迅速な解決を念頭に交渉継続」と盛り込むのが精いっぱいだった。
<欧州委は総力を挙げて交渉継続>
EU首脳会議閉幕後の記者会見に臨んだ欧州理事会のトゥスク常任議長は「今、市民はEUが交渉を進める通商協定が『ベストな選択』なのか疑念を強めている。EUが消費者・労働者・企業の権益を守ることに真剣に取り組んでいることを市民に理解してもらえなければ、自由貿易協定(FTA)の交渉を続けることもできなくなる恐れがある」と警鐘を鳴らした。また、CETAの署名承認が見送られたことについて、「カナダのような関係の深い国との有望な通商協定のこと(ベルギーからの承認が得られていないこと)、そして(国際社会での)EUに対する評価が気掛かりだ」と指摘した一方で、「欧州委が総力を挙げて交渉を続ける」との意思も示した。
今回のEU首脳会議に先駆けて、「欧州の経団連」に相当するビジネスヨーロッパ(欧州産業連盟)のエマ・マルチェガリア会長は10月19日、「カナダとの通商協定の重要性を認識せず、これまでのEUの通商政策を頓挫させるようなことがあれば、われわれは競争力・成長・雇用をめぐる取り組みを成就させることができなくなる」と発言。欧州産業界として、欧州理事会のトゥスク常任議長や欧州委のジャン・クロード・ユンケル委員長にEU首脳会議でのCETA署名承認を迫っていた。
なお、EU首脳会議後の声明には、「欧州理事会は2016年末までに大筋合意に達することを念頭に『日本』とのFTA交渉にも精力的に取り組むよう欧州委に対して求める」との一文も加えられている。
<英国のEU離脱通告の期限表明を歓迎>
このほか、欧州理事会のトゥスク常任議長は英国のEU離脱問題について、「現時点で英国からのリスボン条約第50条に基づく離脱通告は行われていないため、今回のEU首脳会議では取り上げない」としながらも、EU首脳会議に初めて参加した英国のテレーザ・メイ首相を歓迎するとともに、「メイ首相が2017年3月末までにリスボン条約第50条に基づく離脱通告を行うことが確認された」とコメントした。
ただし、「単一市場(EU市場へのアクセス)」と「ヒト・モノ・資本・サービスの自由移動の不可分性」という「(EUの)大原則」については譲らないとも発言し、英国との離脱協議にEUとして厳しい姿勢で臨むことをあらためて強調した。
(前田篤穂)
(EU、カナダ、ベルギー、英国)
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