米商務省、貿易救済措置の執行に関わる新規則を発表、迂回防止など手続き強化

(米国)

ニューヨーク発

2021年09月27日

米国商務省は9月20日、アンチダンピング税(AD)および相殺関税(CVD)の審査手続きを改正する最終規則外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますを発表した。ジーナ・レモンド商務長官はプレスリリースで、「過去20年超で最も包括的な改正」と述べており、貿易上の取り締まりを厳格化する改正となっている。

米国の通商法に詳しい法律事務所は、重要な改正として、AD・CVDを回避するための迂回貿易(注1)の防止に向けた調査(迂回調査)の手続き強化を指摘する。今回の改正で迂回調査の手続きが個別に定められ、商務省は国内事業者の申請がなくとも自主調査が可能となった。さらに、迂回調査によりAD・CVD対象に加わった製品について、これまでは調査完了後の通関に限りAD・CVDが適用されたのに対して、今後は調査前に通関した未清算(注2)の製品にも遡及(そきゅう)的にAD・CVDが適用される可能性がある。また、税関国境保護局(CBP)が商務省に迂回の疑いがある輸入を報告した場合の手続きも具体的に規定されている(注3)。

AD・CVDの適用範囲についても、変更が加えられた。AD・CVDに関する行政命令の対象製品の範囲が明確でない場合、商務省は明確化のための調査(スコーピング)を行う。このスコーピングにより対象製品が追加された場合、迂回調査と同様、商務省の調査開始前に通関した製品も未清算であればAD・CVDを遡及適用可能となった。トランプ前政権で規則の策定を主導したジェフリー・ケスラー元商務次官補は、スコーピング前に通関された製品はこれまでAD・CVDの対象外だったため、輸入者がスコーピングの完了を遅延させるよう商務省に働き掛けていた、と指摘する(通商専門誌「インサイドUSトレード」9月21日)。

AD・CVD調査後に、新たに対象製品を輸出する外国の事業者に対する税率(またはダンピング・マージン、注4)審査についても、証明手続きを厳しくする。前出のケスラー氏によると、これまで事業者は、低税率を得るために自社製品の(対米輸出用の)販売価格を意図的に高く申告できたのに対して、規則改正後は(価格操作ができないよう、当該事業者とは)無関係の購入者から販売価格に関わる書類を求めるなど、税率の不当な操作を許してきた規制の抜け穴を封じる。

そのほか、最終規則では、輸入製品がAD・CVD対象かの証明を事業者に求める手続きや、AD・CVD調査開始前の意見募集に関するスケジュールなどが規定されている(注5)。規則は、10月20日から段階的に施行され、11月4日に全てが有効となる。議会では、ロブ・ポートマン上院議員(共和党、オハイオ州)とシェロッド・ブラウン上院議員(民主党、オハイオ州)が2021年4月にAD・CVD迂回防止のさらなる強化に向けた法案PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)を提出しており、ケスラー氏は超党派による追加的な規制強化の可能性に言及している。

(注1)米国は、1930年関税法に基づき、迂回貿易の対象として、国内外でAD・CVD対象製品を組み込んだ製品や軽微な変更が加えられた製品などについて、商務長官の裁量でAD・CVDの賦課対象と決定することが可能。

(注2)「清算」は、CBPが輸入に伴う関税額を最終決定する手続きを指す。迂回調査の結果、商務省がAD・CVDの対象を追加する場合、同省は適切と判断する限りにおいて、調査開始より前に通関した未清算の輸入について、清算の停止および現金預託の徴収をCBPに指示する権限が与えられる。

(注3)迂回防止については、2016年に成立した「執行・保護法」(EAPA)PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)に基づき、CBPは単独で調査を行う権限を有する一方、判断が難しい案件については、商務省に決定を委ねることがEAPAで規定されている。今回の最終規則では、EAPAと整合するよう手続きが定められている。

(注4)輸出国の国内向け販売価格(正常価格)と輸出向け販売価格との差。「ダンピング」は、輸出向け販売が国内販売より安い価格で行われていることを指す。この差が小さいほど適用税率は低くなるため、事業者と無関係の購入者から証明書類を得る義務がなかった規制改正前は、事業者が恣意(しい)的に輸出向け販売価格を高く申告することができたとされる。

(注5)最終規則に関する主な変更点については、商務省ウェブサイト外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます参照。

(藪恭兵)

(米国)

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